研究課題/領域番号 |
23656389
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
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研究分担者 |
西山 宏昭 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (80403153)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / ガラス / 高電圧印加 / コロナ帯電 / イオン拡散 / 固体電解質 |
研究概要 |
酸化タングステンを含むリン酸塩ガラスは 、溶融の際にタングステンが6価から5価に還元され、濃い青色を呈する。このガラスを水素・窒素混合ガス中で 500℃、2時間の熱処理をすると、還元反応と同時にOH 基がガラス中取り込まれる。本研究は、このような特徴を有するタングステン含有リン酸塩ガラスに高いプロトン導電性を付与するためのプロトン導入プロセスの開拓を目的としている。当初計画では、真空ガラスインプリント装置の上下のモールドに数十~1kVの電圧を印加し、正極側から水素ガスを導入する予定であった。しかしながら、現時点では、電圧印加中にアルカリ移動に伴う応力によるガラスの割れを抑える方策を見いだせていない。そこで、今年度は、ガラスに直接電極を接触させる必要のないコロナ放電法を用いたプロトンの導入を試みた。円盤状に研磨したリン酸塩ガラスをアース電極であるカーボン台座に乗せ、ガラス上面から5 mmの位置に電極針を固定した。大気圧の5%水素95%窒素雰囲気中で電流が10マイクロAになるように電圧を2.3~5.5kVの範囲で印加したところ、コロナ放電を受けた領域でタングステンの還元反応が進行して濃い青色を呈すると同時に、ガラス裏面にナトリウムの析出が確認された。ナトリウムは、大気に曝すと直ちに炭酸ナトリウムに変化した。一方、コロナ放電された領域の赤外吸収スペクトルを測定したところ、OH基の伸縮振動ピーク強度が大幅に増大したことから、針状電極先端で発生したプロトンがガラス中に浸入したと考えられる。ガラス表面からどの程度の深さまでプロトンが浸入しているか、今後、詳細に検討する予定である。また、このような現象は、酸化タングステン、酸化ニオブおよび酸化ナトリウムを含有するリン酸塩系ガラスで顕著であり、組成に応じて異なるプロトン浸入傾向が見られたことから、組成の最適化も重要な検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガラスインプリント装置を用いたリン酸塩ガラスへの高電圧印加を計画していたが、現時点ではガラスの破損を抑えることが困難なため、プロセスをコロナ放電法に切り替えたところ、高濃度のプロトンの導入に成功した。コロナ放電法はパラジウム等の触媒を必要とせず、また、処理温度も室温から300℃程度の低温が好ましいことから、非常に安価で勘弁なプロセスである。現時点では、プロトン浸入深さが見積もられていないため、プロトン導入量の定量化に至っていないが、赤外吸収スペクトルで見積もられるOH基の吸光度は20倍以上に上昇している。処理温度やガラス組成に応じて、プロトン導入量だけでなく、アルカリの排出現象やタングステンの還元反応による着色の程度も異なることから、今後、これらの最適化によって更なるプロトン導入量の向上が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ放電によるガラス中へのプロトンの侵入過程とガラス中での存在状態についてさらなる検討を進める。コロナ放電処理後サンプルの厚さ方向の水酸基の分布およびアルカリイオンの分布を、顕微IR、EDX等を用いて解析し、それらの拡散係数を求める。その結果をもとに、温度、電圧、放電時間等のコロナ放電処理条件とガラス組成の最適化を進める。特に、タングステンやニオブなどの希少元素の利用料を可能な限り少なくした組成の開発に挑む。さらに、インピーダンス測定系構築のための準備を開始し、年度の後半からコロナ放電処理後のガラスのプロトン伝導度を測定する。一方、当初計画のガラスインプリント装置を用いたプロトン導入法についても検討を継続する。現時点で問題となっているガラスの破損を抑えるための対策が重要であるが、コロナ放電の場合と同様に、組成、温度、電圧の最適化と正負極の材質や形状の検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額については、実験計画の見直しにより次年度実施することとなった伝導度測定に関する研究に必要な電気部品、伝導度測定可能なサンプル加工に必要な消耗品の購入に充てることとした。
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