一定間隔で配置した針正極と平坦な負極間に高電圧を印加すると、針先端でコロナ放電が起こり、イオン化した原子、分子が電場で加速されて負極表面に衝突する。本研究では、プロトン拡散係数が高いリン酸塩ガラスを負極上に置き、コロナ放電処理を施すことでプロトンを注入することを目的とした。0.5mm厚のNa-Nb-W-P2O5ガラスを5%H2-95%N2雰囲気中で一定時間コロナ放電した。その際の電極間距離は5 mm、電圧は3~5kVの範囲で調整した。400℃でのコロナ放電処理では、W6+がW5+に還元され濃い青色を呈し、OH基の伸縮振動に由来するピーク強度が増大した。OH基の濃度は10^21個/cm3以上であった。このことから、針状電極先端で発生したプロトンがガラス中に浸入したと考えられる。 一方、NaとAlを等モル含有するアルミノシリケートガラスへのコロナ放電処理を実施した。このガラスは、Na+が四配位のAl3+の近傍で電荷補償していると言われている組成であり、コロナ放電処理でNaをプロトンに置換できれば、プロトン伝導体が得られる可能性がある。200℃の水素雰囲気中、600分のコロナ放電処理によってOH基の吸収ピーク強度が著しく増大した。このガラスを熱処理したところ、低温で消失するルイス酸的OHと高温までガラス中に留まるブレンステッド酸の2種類が存在することが明らかになった。ブレンステッド的OH基のピーク強度が300~400℃付近で上昇することから、ルイス酸的OH基はブレンステッド酸的OH基に構造変化していると思われる。今後、ブレンステッド酸的OH基濃度を高めるためのコロナ放電処理条件の最適化を行い、中温域での高いプロトン伝導性を目指す。 ロナ放電はリン酸塩ガラスへのプロトン注入に有効な手段であることがわかった。今後は、プロトンの厚み方向の分布、導電率等を評価し、固体電解質への応用を目指す。
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