電気陰性度差の小さな軽元素同士の化合物は、強固な共有結合ネットワークからなる「隙間」の大きい結晶構造をもつ。これら結晶格子内の空隙は、擬似的な高圧ポテンシャル場に匹敵すると考えられ、超高圧力場を反応場とすることでポテンシャル障壁を取除くことが可能となる。本研究では、高圧合成法により軽元素共有結合マクロテトラヘドラルクラスター化合物を合成し、クラスター同士の間隙への低濃度イオン・原子挿入によるイオン伝導性の発現や光学的機能設計、さらにはクラスターとドーパントの相互作用による協奏物性・機能発現(希薄磁性半導体等)への展開を目指した。 今年度は最終年度として、昨年度に生成を確認したLi-B-S系の新規化合物の単一相合成条件を調べ、圧力5 GPa、温度600℃での反応が最適条件であることを知見した。生成物の結晶構造解析を進めた結果、構造モデルとしてLi2B2Se5と同型の構造としてRietveld解析により構造精密化をすることができた。この構造は常圧下で生成する層状構造のLi2B2S5とは異なり、BS4四面体骨格の連結からなり、その構造内空隙にLiイオンを配置した構造である。以上より、BS4四面体の連結からなる新規共有結合性フレームワークの形成に成功し、その結晶構造内空隙に可動性イオンとしてのLiイオンを配置した物質設計が可能であることを示すことができた。 本研究を通じ、超高圧力場を反応場とした軽元素共有結合ネットワークの構築ならびにその結晶構造内空隙への原子挿入が可能であることが明示され、電子、スピン、フォノンを独立に制御した機能設計の萌芽を見いだすことができた。
|