研究課題/領域番号 |
23656396
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
和田 智志 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (60240545)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 人工MPB構造 / 複合圧電セラミックス / チタン酸バリウム / ニオブ酸カリウム / エピタキシャル 接合 / ナノ複合セラ ミックス / ソルボサーマル法 / 歪傾斜構造 |
研究概要 |
チタン酸バリウム(BT)をニオブ酸カリウム(KN)でエピタキシャル充填したKN/BTナノ構造セラミックスについて、その物性と微構造の関係について検討した。まず、BTを300nmの粒子径のBT03(堺化学工業)に固定し、その成形体(密度約60%前後)に種々の厚さ(5-50nm)のKNをエピタキシャル被覆したものを作製し、厚さと物性の関係について検討した。その結果、室温での比誘電率および電気歪み量はKN層厚さが約22nmのときに最大となった。また、電気歪み量は30nmで最大となった。次に、BTを500nmの粒子径のBT05(堺化学工業)に固定し、KNをエピタキシャル被覆したものを作製し、厚さと物性の関係について検討した。その結果、比誘電率は25nm、電気歪み量は30nmで最大となった。総合的にはBTの粒子径に関わらず、KN厚さが20-30nm付近において誘電特性や歪み量が最大となることがわかった。また放射光を用いたXRD測定と多層モデルを用いたリートベルト解析の結果、20-30nm付近において構造傾斜領域厚さが最大となることが明らかとなり、構造傾斜領域の厚さと誘電・圧電特性が相関関係にあることがわかった。この原因として、電子顕微鏡観察より30nm以下ではKN/BT界面はエピタキシャルであるのに対し、40nm以上では界面に転移や構造不整合などが観察されるなど界面構造の緩和が確認されたことから、厚く積むことで界面構造が変化することによると考えられる。 また、密度の向上についても検討し、BT粒子の粒度分布に3つの山を作り、成形体の密度向上によるナノ構造セラミックスの密度向上を目指した。その結果、現時点で80%の密度を持つKN/BTナノ構造セラミックスを作製できた。このことから、成形体の状態を最適化することで更なる密度向上の可能性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目的とするKN/BTナノ複合セラミックスをソルボサーマル法を用いて作製することができた。電子顕微鏡観察や放射光を用いた界面構造解析により、KN/BT界面がエピタキシャル接合し、かつ歪傾斜構造を有することが明らかとなった。また、この歪傾斜構造の通常部分における体積分率のKNエピタキシャル層厚さ依存性と圧電・誘電特性のKNエピタキシャル層厚さ依存性がほぼ同じ傾向を示すことから、物性と歪傾斜構造とが対応関係にあることを明らかにできた。この結果は、本申請のサイエンス上のモデルである歪傾斜構造による分極回転領域のKN/BT界面領域への導入と外場による分極回転機構による圧電・誘電特性の発現を指示した結果となっており、この分野では初めての知見となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、圧電特性においてBT上に生成したKN層の最適厚さが明らかとなった。そこで今後は、BT粒子のサイズ依存性について検討する。大きさが20nmから300nmまでの範囲において、5種類の大きさのBT粒子を用い、その集積体を作製し、それを基板としてソルボサーマル法により、目的とするKN/BTナノ複合セラミックスを作製し、圧電特性を評価することで、最適なBT粒子の大きさを評価する。 次に、現在までBT集積体の作製時に、粒子径分布に意図的な分布を設けることで集積体密度を上げることができ、最終的には高い集積体密度の試料を用いることで、80%以上の相対密度を持つKN/BTナノ複合セラミックスの作製を目指す。これはKN/BT界面面積の増加をも意味しており、BT粒子径を制御することで圧電特性を飛躍的に向上できる可能性が高い。
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次年度の研究費の使用計画 |
使用する消耗品を精査した結果、繰越金が発生した。これと次年度研究費を合わせて、化学薬品、実験器具、SEM、TEM用消耗品、EPD用消耗品の購入に加え、成果発表等の旅費や実験補助としての謝金に使用する。
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