研究課題
バイオセンシング技術とは,抗原抗体反応や酵素反応といった生体関連物質が有する特異的分子識別能を利用したセンシング技術である。有害タンパク質あるいは病気の目印となるバイオマーカー等の検出を主な目的としている。この技術を用いて実際に検出を行うデバイスがバイオデバイスであり,その例として生体関連物質を検出する目的で使用するバイオチップ,センシングに必要な一連のプロセスをチップ上で実現するマイクロ流路等がある。これらのデバイスに求められている特性として,システムの微細化,高感度化,そして安価な作製コストという機能が挙げられる。こうした背景から,デバイス構成材料に求められる機能として,高い加工性,高いタンパク質吸着能,そして簡便な作製法が挙げられると考えた。本研究では,APTMSとTEOSを用いて有機-無機ハイブリッド材料を作製し,耐水性と熱処理に伴う構造変化,そしてタンパク質吸着特性を評価した。本研究では,APTMSとTEOSを出発原料とする薄膜を作製し,耐水性と構造変化,タンパク質吸着特性の評価,および表面加工を行なった。耐水性が向上する熱処理条件を決定したところ,APTMS:TEOS=8:2の系では140 ℃で48時間, APTMS:TEOS=5:5では140 ℃で12時間となった。熱処理に伴う構造変化を測定したところ,140℃で熱処理を行うと重合度が増加した。また,長時間の熱処理によりアミノプロピル基がアミドに変性した。今回作製した薄膜は,APTMSの単分子膜よりも,タンパク質を強く吸着した。表面インプリントの手法を用いてパターンを転写し,表面加工を行ない試料表面をパターニングできることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
有機無機ハイブリッドをベースとするタンパク質吸着材料の開発に成功した。この材料は,表面加工が容易であり,かつ高いタンパク質吸着能を有する。具体的には,原料として,アミノ基の静電引力によりタンパク質を吸着可能な3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を選択した。APTMSは,ガラス基板の表面にアミノ基を導入する目的で使用されるシランカップリング剤であり,基板表面のシラノールと結合し,単分子膜を形成する[1, 2]。また,耐水性を向上させるために,分子量を増加させることのできるテトラエトキシシラン(TEOS)を選択した。上記2成分を原料として,ゾルゲル法により,バイオデバイス構成材料を志向した有機-無機ハイブリッド材料を作製した。加工性に関しては,ゾルゲル法により作製するため,ゲル状態でのエッチングや,表面へのインプリントが可能となった。しかしながら,今回作製した薄膜は,APTMSの単分子膜よりも,タンパク質を強く吸着したものの,感度向上が不十分であるため,今年度に到達することを計画している。
タンパク質検出感度の向上を目指し,従来までに作製してきた材料と,金ナノ粒子のコンポジット化を試みる。また,複数の生体関連物質を別個に導入し、入り口側と出口側に光ファイバをカップリングさせ、物質変化をリアルタイムに観察することなどを試みる。例えば、抗原と血清を同時に導入し、生体反応によって生成したIgG(immunoglobulin G、免疫グロブリンG)を観測することを考えている。
抗原抗体反応に用いるタンパク質の購入,ハイブリッド材料をハンドリングするのに必要なシリカガラスの購入に用いる。また,成果発表も積極的に行っていく。当初予定していたインキュベータは,研究の進展が早かったため,既に購入済みであり,今年度の購入は行わない。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
NPG Asia Mater
巻: 4 ページ: 1038
10.1038/am.2012.40