研究課題/領域番号 |
23656407
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
幸塚 広光 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (80178219)
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研究分担者 |
内山 弘章 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (10551319)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 薄膜 / ハードコート / ポリシラザン / 有機・無機ハイブリッド / シリカ / コーティング / プラスチック / 湿式プロセス |
研究概要 |
まず、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)をシリカ源として作製される有機・無機ハイブリッド薄膜の高耐久性化を図る上で、PHPS膜からシリカ膜への変換過程と、変換によって生じるシリカ膜の本性を明らかにしておくことが必要であると考えた。そこで、アンモニア水上での曝露処理によってPHPS膜がシリカ膜に変換される過程の詳細と、この方法により作製されるシリカ膜の本性を、赤外分光法、X線光電子分光法(XPS)により調べるとともに、各種物性の測定を行った。その結果、(1)PHPS膜からシリカ膜への変換は、徐々に起こるのではなく、比較的短時間で一挙に進行すること、(2)同変換は反応律速により進行すること、(3)変換過程で鉛筆硬度が増大し、屈折率が減少すること、(4)得られるシリカ膜はSi-H及びSi-OH基を含有し、シリカガラスと同一の物質とは言えないことが明かとなった。 次に、PHPSをシリカ源としてポリメチルメタクリレート(PMMA)・シリカハイブリッド薄膜を作製し、XPSによって構成元素比の調査を行った。その結果、PMMA量の増加とともにO/Siモル比が2から減少し、Si-C結合の形成の可能性が示唆された。Si-C結合の形成は、硬度の高い膜を作製する上で有利であると判断される。 また、メチルセルロース(MC)を有機成分とするハイブリッド薄膜も作製した。その結果、MC・シリカハイブリッド薄膜の方が、PMMA・シリカハイブリッド薄膜よりも高い鉛筆硬度を持つことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、申請者独自の方法によりPHPSをシリカ源として作製される有機・無機ハイブリッド薄膜を、主としてプラスチックス材料のハードコート膜として活用するのに必要な材料設計指針を得ることにある。交付申請書を作製した時点では、平成23年度には、「組成傾斜」「濡れ」「基材との密着性」に及ぼす「PHPSの分子量」「有機高分子の種類、分子量、量」「成膜条件」「曝露条件」の効果を系統的に調べる予定であった。しかしながら、PHPSから室温で作製されるシリカ膜の本性を明らかにしておくことは、既存技術で作製される有機・無機ハイブリッド膜(シリコンアルコキシドを原料とするハイブリッド膜)との特性の違いを学術的に明らかにしておくことが必須であると考えた。その結果、PHPS膜からシリカ膜への変換過程を明らかにすることができ、さらに、この方法で作製されるシリカ膜の本性もかなり明らかになった。 また、PMMA・シリカハイブリッド膜における構成元素比と化学結合状態を調べたところ、Si-C結合の形成が強く示唆される結果が得られた。これは、PHPSをシリカ源として作製されるハイブリッド膜において、とくに高い力学的耐久性が得られうることを示唆するものである。すなわち、PHPSをシリカ源として作製されるハイブリッド膜に、従来にない特性をもつハードコート膜としての可能性を見いだすことができた。 さらに、有機高分子をPMMAからMCに変えることによってさらに硬度を上げることができ、有機高分子の種類の選択によって、本方法により作製されるハイブリッド膜の硬度をさらに向上させることができる可能性を見いだすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
PHPSをシリカ源として作製される有機・無機ハイブリッド薄膜について、力学的耐久性、プラスチック基材との密着性、化学的耐久性をさらに向上させ、優れたハードコート特性を実現するために、(1)有機高分子の種類の効果、(2)厚膜化の効果、(3)コロイダルシリカ導入の効果を調べる。また、(4)ポリカーボネート基材へのコーティング方法について検討を加える。 「(1)有機高分子の種類の効果」については、平成23年度の結果から、メチルセルロースが高い硬度を実現するのに有効であることが分かったため、平成24年度は、セルロース系の有機高分子を複数種選んで検討を加える。 「(2)厚膜化の効果」については、PHPS溶液の濃縮によって溶液の高粘度化を図り、厚膜化によってプラスチック基材上での鉛筆硬度の向上をねらう。 「(3)コロイダルシリカ導入の効果」については、膜がコロイダルシリカによって補強され、硬度が増大することが期待されるとともに、コロイダルシリカの導入によって厚膜化が可能となることが期待される。 「(4)ポリカーボネート基材へのコーティング」については、アンモニア水上曝露処理の過程で、ポリカーボネートが劣化する問題を解決する方法を考案する。具体的には、PHPS膜を成膜するのに先立ち、ポリカーボネート上に保護膜をコートし、ポリカーボネートと蒸気が接触することを妨げる。保護膜として、化学的耐久性に優れ、ポリカーボネートとPHPS膜との密着性に優れた有機高分子を選択する。 以上の検討によって、優れたハードコート特性をもつ有機・無機ハイブリッド薄膜を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機・無機ハイブリッド薄膜試料を作製するために、PHPS溶液、有機高分子、溶媒、理化学用ガラス器具の購入が必要である。また、基材として各種プラスチック板に加え、単結晶シリコンウェハと石英ガラス板の購入が必要である。さらに、膜の透明性を評価するための可視紫外分光光度計、化学結合状態を評価するための赤外分光光度計の光源の更新が必要となる可能性が高い。 研究成果に関する情報発信を積極的に行い、さらには、最新の情報を収集するために、国内学会ならびに国際会議に参加する。このための旅費が必要である。 以上のように、本研究を推進するためには、消耗品の購入と旅費の支出が必要であり、平成24年度の研究費によってこれらを支出する。
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