前年度は,微小なオープンチャネル(幅0.5mm,深さ1mm)におけるイオン液体の速度分布を走査電子顕微鏡(SEM)で測定することができた。このときの流れは一方向流れであり,流れ方向の速度成分のみを測定した。本年度は拡大部の測定も行い,流れ方向およびそれと垂直方向の速度成分を測定した。これにより,SEMにより平面内流れの速度分布を測定することが可能となった。 さらに,オープンチャネルにフタをした通常のチャネル内における流れの可視化にも取り組んだ。SEMで観察を行う場合,チャネルに使用するフタは電子を透過させるものでなければならない。そこでコロジオン支持膜をフタとし,膜下にある流体の流れの可視化を試みた。流れのトレーサーとして金メッキを施したプラスチック粒子を用いた。その結果,流体内部にあるトレーサー粒子を可視化することができた。ただし,フタをした状態で微小な流れを作り出すことができず,流れそのものの可視化はできなかった。 また,マイクロスケール流れにおける壁面近傍の流れをエバネッセント光を用いて詳細に観察した。ニュートン流体の流れを壁面から約200nmの位置で測定した結果,ニュートン流体の理論的な速度分布にのる定常な速度が測定でき,壁面上ではスリップしていないことが確認できた。それに対して高分子流体の場合,壁面近傍で不安定な流れとなり,トレーサー粒子は定常な運動をしなかった。高分子流体では壁面近傍では定常な流れがそもそも存在しないのではないかと考えられる。また,壁面のやや離れた位置まで流体が粘着しているように見えた。壁面近傍ではおそらく電気化学的な作用により高分子が壁面に吸着しているものと考えれば,それにより,壁面近傍でスリップが見かけ上生じると説明することができる。
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