研究課題/領域番号 |
23656413
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
渡辺 雄二郎 金沢工業大学, 高度材料科学研究開発センター, 研究員 (60410297)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 層状複水酸化物 / 大気圧走査型電子顕微鏡 / 膨潤 / 剥離 / 有機/無機ナノ複合体 / ナノ構造 / 粘土鉱物 / イオン交換 |
研究概要 |
本研究はナノ層間を精密に制御した構造材料の開発促進を目的とする。大気圧下で観察可能な新型走査型電子顕微鏡(ASEM)を用いた直接観察法により、多種有機物と層状複水酸化物(LDH)からなる有機/無機ナノ複合体の創製におけるLDHの膨潤・剥離・複合化機構の解明および積層構造の構築を行う。平成23年度は化学組成・粒子径の異なるLDHを共沈法と尿素法・脱炭酸法で合成し、得られたLDHの各種溶媒(水、ホルムアミド、ラウリン酸)中での膨潤・剥離挙動をASEMにより直接観察した。またその結果を各種溶媒中で測定したXRDパターンと比較検討した。以下にそれらの主な結果を示す。1.水熱処理法で得られた硝酸型Ca-Al系LDH(粒子径 約5μm)と純水を接触させ、ASEMによりLDHの厚み変化を断続的に約200分直接観察した。その結果、時間経過とともにLDH層間に水分子が取り込まれ、膨潤していく様子が観察された。またその層間の広がりはXRDパターンのd値から求めた層間距離(0.13nm 水分子1個分に相当)とほぼ一致した。2.尿素法・脱炭酸法で得られた塩素型Mg/Al系LDH(粒子径 約 2μm)とラウリン酸溶液とを接触させ、ASEMにより数時間直接観察した。その結果、LDH層間にラウリン酸イオンが取り込まれることにより、大きく膨潤する様子が観察された。またその層間の広がりはXRDパターンのd値から求めた層間距離(0.45 nm)とほぼ一致した。3.共沈法により得られた塩素型Mg/Al系LDHとホルムアミドを接触させ、ASEMにより直接観察した。その結果、瞬時にLDHが剥離し、シート状になる様子が観察された。なお、炭酸型LDHによるこれらの実験では変化が見られなかった。 以上のように、ASEMにより各種溶媒中のLDHの膨潤・剥離挙動をはじめて直接観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は化学組成・粒子径の異なるLDHを共沈法と尿素法・脱炭酸法で合成し、得られたLDHの各種溶媒中での膨潤・剥離挙動をASEMにより直接観察をすることが目的であった。この目的に従って、研究を推進した結果、化学組成・粒子径の異なるLDHを共沈法と尿素法・脱炭酸法で合成でき、得られたLDHの各種溶媒(水、ホルムアミド、ラウリン酸)中での膨潤・剥離挙動をASEMによりはじめて直接観察することに成功した。したがって当初の計画通り順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には従来の複合化技術を基盤に、層状複水酸化物(LDH)のCaCO3相、HA相への相変化反応による有機/無機積層構造の構築を下記手順で行う。1)LDH層間への有機物(アミノ酸、ラウリン酸等)の導入:温度や時間変化におけるLDH層間への各種有機物の導入量の検討を行う。分析は大気圧走査型電子顕微鏡(ASEM)、粉末X線回折装置(XRD)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、赤外吸収装置(FT-IR)を用いて行う。なおLDHは昨年度作製した尿素法・脱炭酸法で合成した粒子径の大きいMg-Al系LDHおよびCa-Al系LDH等を用いて行う。2)有機物/ LDHナノ複合体のCaCO3化:1)で得られた有機物/LDHナノ複合体のCaCO3化を試みる。具体的には炭酸イオンを一部導入したMg-Al系LDHと塩化カルシウム水溶液との反応および、Ca-Al系LDHと炭酸ナトリウムの反応を温度、濃度、pH条件を変化させて行う。3)有機物/ LDHナノ複合体のHA化:1)で得られた有機物/LDHナノ複合体のHA化を試みる。具体的にはリン酸イオンを一部導入したMg-Al系LDHと塩化カルシウム水溶液との反応および、Ca-Al系LDHとリン酸ナトリウム水溶液の反応を温度、濃度、pH条件を変化させて行う。 上記の分析はASEMを中心にXRD、STEM、FT-IR等で総合的に行う。これらの検討により、層状複水酸化物の層剥離・複合化機構の解明および積層構造の構築の実現が可能となり、ナノ層間を精密に制御した構造材料の創製に大きく貢献するとともに、現在まで詳細な再現ができていない貝殻構造を新たな切り口から再現でき、高強度複合材料やDDS材料としての応用が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費繰り越しが生じた理由:当初は平成23年度にASEMによる層状複水酸化物の剥離・膨潤挙動の観察を5回依頼することを想定していた。しかし、東北地方太平洋沖地震の影響等による装置のメンテナンスや研究予算の分割支払い等により依頼分析の開始時期が遅れ2回となった。しかしながら、その2回の分析依頼を効率的に行ったことおよび、研究協力者の分析協力により、研究が進展し、当初の一定の目標を達成することはできた。そこで平成23年度の予算の一部を平成24年度に繰り越し、平成24年度の複合化技術の構築のための依頼分析および立会い依頼分析のための出張費に充当することとした。このことにより、平成24年度の研究が大きく発展することが期待できる。平成24年度の研究費は合成に係る実験器具・試薬・装置等消耗品費、ASEM、STEM観察等の分析依頼費、それに係る出張旅費、研究成果の国内外での公表のための学会発表旅費・論文掲載費、有識者との研究打ち合わせ旅費に使用する。
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