本研究ではナノ層間を精密に制御した構造材料の開発促進を目的に、大気圧下で観察可能な新型走査型電子顕微鏡(ASEM)を用いた直接観察法により、多種有機物と層状複水酸化物(LDH)からなる有機/無機ナノ複合体の創製におけるLDHの膨潤・剥離・複合化機構の解明および積層構造の構築に関する検討を行った。以下に主な結果を示す。 1. 塩素型Mg/Al系LDH(粒子径 約 2 μm)とラウリン酸溶液を接触させ、ASEMにより直接観察した結果、LDH層間にラウリン酸イオンが取り込まれることにより、大きく膨潤する様子が観察された。またその層間の広がりはXRDパターンのd値から求めた値(0.45 nm)とほぼ一致した。 2. 塩素型Mg/Al系LDH(粒子径 100 nm以下)とホルムアミドを接触させ、ASEMにより直接観察した結果、瞬時にLDHが剥離し、シート状になる様子が観察された。 3. 硝酸型のCa-Al系LDHと所定濃度の炭酸ナトリウム水溶液を反応させ、水溶液中で直接観察した結果、0.1Mと0.01Mでは六角板状のLDH結晶から数分で立方体結晶の炭酸カルシウム(カルサイト)に相変化する様子が観察された。一方0.001Mの添加では形状変化がほとんど起こらないことが明らかになった。 4. アスコルビン酸含有Ca-Al系LDHやMg-Al系LDHと所定濃度のリン酸ナトリウム水溶液を反応させた結果、ビタミンC含有LDHの表面または粒子間にHApが形成することが明らかになった。 本研究により、ASEMを用いてLDHの膨潤・剥離・複合化反応を直接観察することにはじめて成功した。またLDH/炭酸カルシウム複合体およびLDH/HAp複合体を合成でき、有機/無機ナノ複合体の創製や積層構造構築に向けた基礎データを収集することができた。本研究成果はナノ層間を精密に制御した構造材料の開発促進に繋がる。
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