研究概要 |
板状の純アルミニウムの表面改質によって,これまでにTiNi合金やZrNi合金で示されているような,水素吸蔵による自発的な変形(水素誘起変形)が生じるかどうか,H23年度に調査した。純アルミニウムの表面は元々強固な酸化膜で覆われているために,その酸化膜を除去した上で表面改質を行う必要がある。そこで,あらかじめアルカリ脱脂処理とピックリング処理を行った。その後,純アルミニウム表面に対して,Ni-Pめっきを行う前処理として,表層にZnを付着させるジンケート処理を2回実施した。その後,無電解でNi-Pめっきを行った。さらにそのNi-Pめっき膜の表面に無電解Pdメッキを付着させた。Pdめっき膜の厚さは,無電解溶液に浸漬する時間で調整を行った。Pdめっきで表面改質を行った板状の純アルミニウム試験片表面の片側のみのPdめっき層を研磨により除去したものを水素吸蔵変形前の試料とした。その後,電解水素チャージ法により材料内部に水素を吸蔵させたときの変形の様子を外部から連続的にモニタリングした。その結果,純アルミニウムにおいても片側表面のみのPdめっき層の生成によって,水素誘起変形が生じることが初めて明らかになった。しかしながら,予め生成させるPdめっき膜が薄い場合には,水素誘起変形の応答が顕著に遅くなることも明らかになった。これまでに報告してきたTiNi合金板やZrNi合金板でみられる水素誘起変形と比べると,全体的に変形速度が小さいことが明らかになった。また,水素誘起変形を生じたPdめっきアルミニウムを加熱することで,形状回復が生じることも明らかになった。顕著な形状回復が生じる温度(約130℃)は,別な試験片で調査した,昇温水素脱離分析で検出される水素放出ピーク温度と一致した。構造金属であり安価なアルミニウム材料に対するPd表面改質で,水素誘起変形を生じさせることが可能であることが本研究において初めて示された。
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