結晶粒界は粒内とは異なる電子構造をもつことから,しばしば特異な特性・機能を発現する。したがって,従来,変換効率低下の主因と考えられてきた結晶粒界を逆に積極的に利用することにより,新規な高効率多結晶太陽電池材料の開発が期待される。本研究では,粒界電子物性を明らかにし,粒界機能を有効に発現させるための粒界設計について検討することを目的としている。平成25年度は,主にCdTe多結晶に高頻度で存在する(111)Σ3粒界のキャリ再結合活性をカソードルミネッセンス(CL)を用いて測定を行い,第一原理計算に基づいて実験結果を理論的に考察した。 1. CdTeの(111)Σ3粒界についてCL観察を行ったところ,幾何学的には同じ性格の粒界であるにもかかわらず,CLコントラストが強い電気的に活性な粒界とコントラストの弱い電気的に不活性な粒界が存在することが見出された。CdTeの(111)Σ3粒界は,TeあるいはCd原子をコアとする極性界面となることが,H24年度の研究で明らかとなっており,本年度は引き続き第一原理計算により電子状態の解析を行った。その結果,Cdコアの(111)Σ3粒界では,Ev+0.19 eVの位置に界面準位が形成されるのに対し,Teコア(111)Σ3粒界では,バンドギャップ内にそのような界面準位は形成されないことが明らかとなった。したがって,CdTeの(111)Σ3粒界の電気活性は,粒界における極性に著しく依存することが明らかとなった。 2. 粒界をビルトインポテンシャルとして積極的に利用してキャリアの分離を促進させることにより,光ー電気変換効率の向上を図る目的で,ナノ結晶シリコン薄膜の作製を試みた。ガラス基板上にマグネトロンスパッタリング法によりアモルファスシリコンを成膜し,その後結晶化することにより粒径5-25nmのナノ結晶シリコン薄膜の作製に成功した。
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