研究課題/領域番号 |
23656441
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
幅崎 浩樹 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50208568)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / 燃料電池 / 固体電解質 / アモルファス / アノード酸化 / 酸性酸化物 / ナノ薄膜 |
研究概要 |
低コストで高効率な燃料電池として期待されている中温域(150~300℃)で作動する固体酸化物燃料電池の実現には,この温度域で実用的なイオン伝導性を示す固体電解質の創製である。本研究では,電解質の膜厚を100 nmまで低減した新規なプロトン伝導膜をアノード酸化という簡便な電気化学プロセスで創製することを目的とした。 著者らが見出したプロトン伝導性アノード酸化ZrO2-WO3ナノ薄膜は200℃を超える温度でイオン伝導性を消失することがわかったが,シリコンを添加したZrO2-WO3-SiO2ナノ薄膜は300℃でも高いプロトン伝導性を維持し,耐熱性が飛躍的に向上した。熱処理試料のキャラクタリゼーションから,伝導率の消失は,酸化膜から合金基板への酸素の拡散とそれに伴う酸化膜の組成の変化が主因であることを突き止めた。 次に,ZrO2-WO3-SiO2ナノ薄膜のプロトン伝導率は,200-300 nmの膜厚で膜厚依存性を示し,膜厚が減少するほどイオン伝導率が増大するという特異な現象を見出した。このアノード酸化膜はシリコン,タングステンを含まない薄いZrO2外層とジルコニウム,タングステン,シリコンをすべて含む酸化物内層の2層膜から構成される。この2層酸化膜の生成は,カチオン種のイオン移動速度の違いにより説明される。ZrO2外層を溶解したところ,内層のプロトン伝導率はほとんど膜厚依存性を示さないことを明らかとした。したがって,プロトン伝導率の膜厚依存性は外層の膜厚依存性に起因する。外層中のプロトン濃度は,膜厚が薄いほど高いことがわかり,伝導率の膜厚依存性の要因となっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ZrO2-WO3膜は耐熱性が低いことが明らかとなったが,その熱劣化機構の解明とその抑制方法の確立を達成し,熱安定性に関する課題を解決する方策をすでに見出している。また,このアノード酸化膜のプロトン伝導性の特異な膜厚依存性を見出し,その膜厚依存性の主因を突き止めるなど,研究は極めて順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,得られたプロトン伝導膜の雰囲気安定性の評価とその解析を一つの目的とする。すでに無加湿条件下でも加湿条件と同等の高いプロトン伝導性を維持することを見出しているが,さらに酸化および還元雰囲気での伝導率の安定性等を評価する。これは電解質膜として応用するためには必須となる。また,酸化膜中のタングステンおよびシリコン量の最適化を行い,熱的,化学的安定性に優れ,実用レベルのイオン伝導率を示す材料の探索を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
材料の耐熱性を改善する組成探索が極めて順調に進んだことから,必要とする消耗品が予定よりも少額で済んだことにより,108,920円の残が平成23年度に生じた。この分は平成24年度にプロトン伝導膜の雰囲気安定性を重点的に評価するための消耗品,評価装置の使用料に利用する。
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