本研究は,次世代の中温域(150-400℃)作動の燃料電池を開発するためのキーとなるプロトン伝導性固体電解質を見出すことを目的としている。代表者らは,最近簡便なアノード酸化法で作製したアモルファスZrO2-WO3ナノ薄膜が燃料電池電解質として実用レベルのプロトン伝導性を示すことを明らかとした。しかしながら,耐熱性は低く,200℃以上の温度でイオン伝導性を消失した。そこで本研究では,耐熱性を改善したアノード酸化アモルファスプロトン伝導薄膜の創製を目的とした。 新たにZr-W-Si合金をマグネトロンスパッタ法にて作製してこれをアノード酸化したところ,生成した酸化膜は二層であり,外層(皮膜全体の10%)はタングステン,シリコンフリーのジルコニア層,内層はすべての合金元素を含む酸化物層であり,二層皮膜生成はアノード酸化皮膜生成時のイオン移動速度で説明できた。この酸化膜のプロトン伝導性は200℃以上の予備熱処理で発現し,300℃熱処理を行なっても安定なプロトン伝導性を示し,耐熱性は大幅に改善できることを確認するとともに,400℃における熱劣化は,酸素イオン拡散による酸化膜の組成変化に起因することを明らかにした。 また,この二層酸化膜のプロトン伝導性はユニークな膜厚依存性を示し,300 nmから膜厚を減少させると一桁以上プロトン伝導率が上昇した。この膜厚依存性は外層のプロトン伝導率の膜厚依存性に起因し,膜厚すなわちアノード酸化電圧の上昇とともに酸化膜外層中のプロトン濃度が減少することと対応している。 さらに,この酸化膜は水素雰囲気下で一桁の伝導率上昇を示すなど,新規なイオン伝導体として学術的にも興味ある材料であり,また応用面でも燃料電池電解質として優れた特性を示すことを本研究で明らかにすることができた。
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