研究課題/領域番号 |
23656448
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
早乙女 康典 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90143198)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2012-03-31
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キーワード | 金属ガラス / 急速加熱 / 構造変化 / 非平衡プロセス |
研究概要 |
金属ガラスは,溶融金属の急冷凝固過程で,粘性が増大し,過冷却液体状態を経て,アモルファス固体として得られる.そこで,金属ガラスを,超急速加熱(加熱速度~1,000,000K/s)することにより,急冷凝固と逆の状態を作り出し,ガラス遷移,結晶化挙動を明らかにする.さらに結晶化温度の上昇による結晶化の抑制効果を明らかにすることにより,アモルファスと結晶との構造変化とガラス形成能のメカニズムを明らかにすることを目的とした.材料の準平衡加熱下の相変化の測定には,一般に示差走査熱量計(DSC)が用いられ,0.5K/s程度の昇温(加熱)速度下で計測されるが,本研究では,直接通電加熱方式によって,加熱速度1,000,000K/sに至る急速加熱下での相変化を捉えるため,まず始めに,急速加熱(~200K/s)下のガラス遷移と結晶化挙動を観察する装置の改造を行った.すなわち,現用の真空チャンバーを改造し,現有の二色温度計(InGaAs,波長1.52,1.64μm)を用いた温度計測システムを完成させた.急速加熱下の温度,電気抵抗値変化,応力緩和挙動,熱分析曲線から,ガラス遷移温度Tg,結晶化開始温度Txs,結晶化終了温度Txfを特定する方法を確立した.応力緩和挙動については,試験片に予め引張り予変形を与えておき,急速加熱下で現れる構造緩和,ガラス遷移,過冷却液体域での粘性低下現象を計測することにより解析を行った.試験片は, 耐食性に優れ,安価なNi65Cr15P16B4基金属ガラスを用いた.加熱速度の増加とともに,温度Tg, Txs,Txfが上昇し,加熱速度HR=0.67K/sでの加熱下ではTg=658,Txs=707Kであったものが,HR=200K/sの急速加熱下では,Tg=760K,Txs=800Kとなり,同時に相分離が生じ4回の結晶化ピークが現れることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Ni基金属ガラス箔試験片を用いた急速加熱実験により,加熱速度の増加とともに,ガラス遷移温度,結晶化温度が上昇し,結晶化プロセスにおいて相分離が生じることを明らかにした.この過程で,真空・断熱雰囲気下では,結晶化に伴う発熱反応により上記の相分離が不明瞭になることから,実験雰囲気をヘリウム雰囲気とした.また,相変化の熱分析を行う上で,一定加熱速度で加熱することが有効であることから,新たに急速加熱制御回路を製作して用いた.とくに,使用した二色温度計(InGaAs)により測定可能な温度範囲が573K~1273Kであることから,573Kで加熱制御方式の切り替えができる装置の設計・製作を行ったところに,「やや遅れている」理由がある.また,現有の二色温度計(InGaAs)の応答時間は2msであるので,加熱速度500K/s以上~1,000,000K/sに対応する超高速二色温度計を試作する.その際,多芯光ファイバーの各々に,波長フィルターと赤外線検出素子(浜松ホトニクス製フォトダイオード,短波長InGaAs(0.5-1.7μm))を取り付けた分光器を作製する計画であったが,光ファイバーと試験片間の光学系について,チャンバーを新たに設計,製作する必要があることがわかった.現在,製作中であることも,「やや遅れている」理由である.
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今後の研究の推進方策 |
急速加熱下の各温度から急冷されたNi基金属ガラス試験片について, X線回折(XRD)による析出結晶相の同定を行って,加熱速度(~200K/s)における結晶化過程の解析を行う.次に,新たな真空チャンバーが完成次第,現有の相馬光学製のマルチチャンネル分光計(紫外Si(0.2~1μm),短波長InGaAs(0.5-1.7μm),長短波長InGaAs(1.5-2.1μm),長短波長InGaAs(2-2.5μm))により,結晶化の進行に伴うスペクトルの変化を調べる.析出結晶相と特定波長での変化との相関が明らかになれば,加熱速度1,000,000K/s下での相変化の観測に有効であると考えられる.そこで,超高速二色温度計を用いた装置を完成させ,実験に供する.また,金属ガラスの特徴である,応力緩和挙動,ガラス遷移挙動と放射スペクトル特性との相関について明らかにする.この非接触測定法によってガラス遷移挙動を検出することが可能になれば,急速加熱下での現象を利用した高効率加工が可能になり,金属ガラスの実用化に大きく貢献する.一方,準平衡加熱下ではガラス遷移挙動を示さないFe基アモルファス合金について,開発した装置を用いて,ガラス遷移温度Tg,結晶化開始温度Txs,結晶化終了温度Txfを計測し,ガラス形成能のメカニズムを明らかにすると同時に,急速加熱下の結晶化過程について,結晶核発生,結晶粒成長過程と放射スペクトル特性との相関について明らかにする.この現象が明らかになり,結晶化過程の制御が可能になれば,ナノ結晶分散組織制御材料の開発に大きく寄与する.
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次年度の研究費の使用計画 |
加熱速度500K/s~1,000,000K/sの超急速加熱下のアモルファス合金試片の温度測定法について,多芯光ファイバーの各に波長フィルターと赤外線検出素子を取り付けた2色温度計方式を計画していたが,光学系上の問題から計画を変更し,各赤外線検出素子毎に光学系を配して計測することとした.このため加熱速度500K/s以上の連続加熱変態の解析を次年度に行うこととし,未使用額はその経費に充てることとした.・真空チャンバーの製作:箔試験片の直接通電加熱,応力緩和挙動観察のための予ひずみ負荷機構,ヘリウムガス置換・真空チャンバー用MgF2光学ウィンドウ(直径50mm):試験片の放射スペクトルを計測するために,120nm~7μmの波長帯に優れた透光性能を有する窓ガラスとして使用する.・各種電子部品:1,000,000K/sの超急速加熱制御および計測を可能とする電子回路を製作する際に用いる超高速OPアンプ,超高速・大電流FETなど.
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