研究課題/領域番号 |
23656449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (90323443)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 色素増感太陽電池 / チタニア電極 / バリア放電処理 / オゾン / ラジカル / ガラス基板 / プラスチック基板 / 変換効率 |
研究概要 |
当初予定通りガラス基板色素増感太陽電池のチタニア電極バリア放電処理を行ったが、その中でチタニア電極の焼成温度を従来の450度から300度以下に大幅に下げることができる新技術の発見に成功した。従来法ではチタニアペーストを導電性ガラス基板に塗布し、450度で焼成してから色素液につける。焼成温度が450度と高いため、ガラス基板や透明電極に高温に強い材料しか使えないという制約条件があった。本研究では、チタニアペーストを塗布したガラス基板を低温焼成(150~300度)し、次にバリア放電で発生させたオゾンにさらしてペーストの有機物バインダを酸化揮発処理し、さらにその後直接バリ井放電に短時間さらすことによって、300度の焼成温度でも従来の450度焼成に匹敵する変換効率を得ることに成功した。さらに150度という極低温焼成でも、従来法の450度焼成の1/3程度ではあるが、変換効率を出すことに成功した。従来法では300度以下の焼成でまったく性能が出なかったのに対し、本研究で見つけた作製法は高温に弱い材料の使用に新たな道を開く研究成果である。プラスチック基板太陽電池についても、当初予定通りバリア放電処理を行った。まず最初に製作の難しいプラスチック基板太陽電池の製作技術を習得し、その後にバリア放電処理の効果を調べた。プラスチック基板太陽電池では焼成温度が150度と低いため、特殊なチタニアペーストを使用する。そのため基板とペーストの密着が弱く、バリア放電処理をするとペーストが剥離するというマイナスの効果が観測された。今後、より穏和なバリア放電を発生させ、プラスチック基板でもバリア放電処理の効果が得られる条件を探していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、色素増感太陽電池のバリア放電処理の効果を示すことができた。具体的にはチタニア電極の焼成温度450度において、バリア放電処理で太陽電池の変換効率を1~2割向上させることができた。バリア放電処理の効果を示すという本研究の第一の目的において、満足な結果が得られた。さらに今年度は、焼成温度を大きく下げた時にも、バリア放電処理を用いると太陽電池の作成が可能であることを見つけた。これは本研究の目的になかった予想外の結果であるが、焼成温度を450度から300度、今後の研究の進展によっては150度以下まで下げられることを示すことができた。これは「バリア放電処理を用いた低温焼成色素増感太陽電池の作成」というまったく新しい技術の開発であり、焼成温度の高さが大きなネックになっていた色素増感太陽電池に新たな開発指針を示す結果である。これは本研究全体を通して、最も大きな研究成果の一つにあげられるであろう。来年度以降も、この技術をさらに洗練させていく予定である。プラスチック基板太陽電池については、初年度は作製法をマスターするという目的を達成することができた。その上でバリア放電処理も行い、バリア放電処理についてはチタニア電極が放電で剥離するという欠点が明らかになった。この欠点は改善できる可能性があり、今後も研究を続けていく。
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今後の研究の推進方策 |
ガラス基板太陽電池については、前年度に引き続きバリア放電処理でチタニア電極の焼成温度を下げる研究を行う。焼成温度を下げることができれば、基板および透明電極の材料の制約が緩和され、安価で高性能な太陽電池の開発に新たな道がひらける。透明基板は高温に弱く、性能や価格を犠牲にして高温に強いものを使用せざるをえない。もしバリア放電処理で焼成温度を下げることができれば、このような透明電極の材料の制約を緩和することができる。さらに、もし焼成温度を150度まで下げることができれば、ガラス基板を高温に弱いプラスチック基板に変えることができ、価格や重量の面で著しい進展が期待できる。現在も150度の焼成でプラスチック基板太陽電池が開発されているが、これは低温焼成用の特殊なペーストを使用するため性能が著しく悪い。本研究の手法がうまくいけば、高温焼成用の高性能ペーストをそのまま150度焼成のプラスチック基板に使用できることになり、プラスチック基板太陽電池の大幅な性能向上に寄与することになる。この他、レーザーパルス法を用いた電子の拡散速度や寿命、XPSを用いた表面計測、バリア放電で発生する活性種の計測などにより、バリア放電処理による性能向上の原理を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、プラスチック基板太陽電池作成用に必要なスピンコート装置を購入する予定であったが、これを使用しなくてもプラスチック基板太陽電池を作成する独自の手法を開発できたため装置の購入を見送り、研究費に繰越しが生じた。この繰越を有効利用し、次年度は太陽電池の作製に必要な透明ガラス基板、透明プラスチック基板、チタニアペースト、色素などの消耗品を購入し、研究をさらに推し進める。またプラズマ処理の性能改善機構を調べる実験でパルス半導体レーザーや光計測器が必要になり、バリア放電の活性種を調べる研究ではレーザー部品や光学部品等が必要になる。また、内外を含めて本研究成果を学会で発表する予定なので、その旅費にも使用する。
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