研究課題/領域番号 |
23656449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 亮 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (90323443)
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キーワード | 色素増感太陽電池 / チタニア電極 / 紫外線処理 / バリア放電処理 / 活性種 / ガラス基板 / プラスチック基板 / 変換効率 |
研究概要 |
今年度は、昨年度のバリア放電処理に加えて紫外線処理を新たに試み、バリア放電と同等の効果が得られることを示した。紫外線処理を試みたのは以下の理由による。昨年度までのバリア放電処理の研究により、色素増感太陽電池のチタニア電極処理では、バリア放電で生成されるO原子、OHラジカル、オゾンなどの活性種が効果的であることが分かった。185nmの紫外線を放射する低圧水銀ランプでもこれらの活性種を生成できるため、チタニア電極処理の新手法開発を目指して本実験を行った。バリア放電はチタニア電極に直接放電があたるため、処理中にチタニア電極にダメージが生じ、短時間の処理しかできないことが分かっていた。また本研究の最終目的であるプラスチック基板太陽電池にバリア放電処理を施すと、基板とチタニア電極の密着が弱いため簡単にチタニア電極が基板からはがれてしまうという欠点があった。紫外線処理は紫外線がチタニア電極に当たるだけなので、このようなダメージは発生せず、長時間処理、あるいはプラスチック基板太陽電池への適用も可能である可能性を示した。一方で紫外線処理はバリア放電処理より処理速度が遅いことも分かった。この研究成果は"Chemistry Letters"にすでに受理されており、もうじき出版予定である。この紫外線処理とバリア放電処理を組み合わせることで、お互いの処理方法の短所を補うかたちでのハイブリッド処理の可能性も見出し、今後調べていく予定である。 この他、200度付近での低温焼成を行いながら周囲を減圧し、バインダの気化をなるべく低温で行う手法の開発も試みている。減圧速度の調整などがまだ不十分であり実験の成功までは至っていないものの、今後開発を進めれば見込みのありそうな技術である感触を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の段階で本バリア放電処理がチタニア電極の低温焼成に利用できることを発見し、バリア電極処理の目的として太陽電池の変換効率向上とともに低温焼成法の開発にも向けることを述べた。低温焼成法の開発も、最終的にはプラスチック基板太陽電池の変換効率大幅向上につながる研究である。その視点からみると、昨年度の段階で大きな懸念事項となっていた「バリア放電処理によるチタニア電極へのダメージ」を、今年度新手法として紫外線処理を導入し回避できること示したことは大きな成果である。バリア放電や紫外線などの活性種の反応を用いた低温焼成法の実用化へ、大きく前進したといえる。本手法のように高温焼成用のチタニアペーストを用いて低温焼成でチタニア電極を作成したのは、世界初の快挙である。学会発表では企業からの質問も多くあり、本研究成果が色素増感太陽電池の実用化に向けたブレイクスルーになる可能性を感じている。このように、新手法の提案とその欠点の改善が順調に行われており、得られた成果が与えるインパクトをみても、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度新たに開発した紫外線処理では、最も一般的な紫外線源である低圧水銀ランプを使用した。今後はさらに強力な紫外線源であるエキシマランプを使用した処理を計画している。エキシマランプは波長172nmの真空紫外光を放射し、試算によれば低圧水銀ランプの100倍もの活性種生成能力がある。紫外線処理の問題点であった処理速度の遅さを、この新たな手法でクリアできる可能性がある。また、これまでの研究はほとんどがガラス基板太陽電池を用いて行ってきたが、本研究の最終目標であるプラスチック基板太陽電池を用いた紫外線処理も行う予定である。最後に、バリア放電処理と紫外線処理を組み合わせて、お互いの長所を最大限に生かし、短所を最大限補うような最適化を行い、どこまで変換効率をたもったまま焼成温度を下げることができるかを調べる。目標は、プラスチック基板にも適用できる焼成温度150度である。
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次年度の研究費の使用計画 |
太陽電池の作成に必要な透明ガラス基板、透明プラスチック基板、チタニアペースト、色素などの消耗品を購入する。エキシマランプの作成に必要な電源部品、電子部品、光学部品も購入する。また、研究成果の発表のための旅費にも使用する。
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