研究課題/領域番号 |
23656450
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
光田 好孝 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20212235)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | グラフェン / マイクロ波CVD / 固相拡散 |
研究概要 |
マイクロ波プラズマ化学気相合成環境でのNi/SiO2界面へのグラフェンの析出を目指し、本年度は(1)高結晶性Niバッファー層の堆積、(2)拡散シミュレーションによるNi中の炭素原子の固溶および拡散の最適温度の見積り、および(3)上記環境において拡散後の表面化学組成測定を行った。この研究により、結晶性が高く、レイヤー分布の均一性が良い高結晶性のNi薄膜を堆積し、XRD測定により(111)および(100)配向した薄膜が得られることを示した。この時、表面酸化Si基板の平坦性を保つため、870Kという比較的低温での薄膜堆積を行い、面内均一性が数%以内であることを表面段差測定により確認した。(2)Ni薄中のC原子の拡散シミュレーションから単層グラフェンの析出に必要な処理時間は670, 770, 870 Kで それぞれ400, 16, 1.8秒と見積もられた。ここから、冷却により炭素拡散が制限されることと、界面への析出は表面よりも生じにくい可能性を考え、固相炭素の析出を確認するための実験パラメーターとして870 Kを採用した。(3)Niをマスクパターンで形成し、熱プラズマCVD条件で炭素を拡散させ、その後に硝酸によりNiを除去して残存した炭素成分をXPSによる表面計測で測定した。この実験によれば、もともとNiが堆積されていない領域ではSiO2のOとSiが主要成分であった。また、Siの結合エネルギーは酸化物の状態であった。この結果は、メタン/水素熱プラズマにおいても、基板温度が870K程度であればSiO2の還元は生じず、表面平坦性が保たれることを示唆している。他方、グラフェン析出を生じさせるためにNiが堆積されていた領域では、表面は固相の炭素成分と微量のNiにより覆われていることが示された。また、この領域ではSiは検出されなかった。これらの結果はNi中に固溶した炭素の界面への析出を裏付けるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、初年度に、Ni中に炭化相の偏析を生じさせない拡散時間の理論的見積もりと拡散後の表面分析におけるグラファイトの界面への析出の確認を目標としており、この2点の目標を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度までの実験において、固相Ni中の拡散を促すため、シミュレーションにより予想された時間より十分に長い時間のマイクロ波プラズマ暴露を行った。これにより、界面への炭素析出を確認することが出来た。本年度はこれを発展させ、析出したグラファイトの層数を制御することが主要な課題となる。まず、マイクロ波CVD処理時間を短くすることで、析出する炭素量がどの程度変化するかを見極める。XPSのC1s、グラファイト層を透過して放出されるSi2p, O1sピーク強度を計測することで、厚さの低減を定量的に評価する。また、物理的な厚さ測定法として、Niの溶解除去後に、表面AFM観察を行う方法も検討している。膜厚が数層程度以下であると予想された試料に関しては、顕微ラマン散乱分光測定により、グラファイト2Dピークを計測することで総数を同定するとともに、その面内分布を同定する。これにより、構造の面内均一性を評価可能である。これらの実験は10×10mm2の基板を用いて行うが、Niの有無による違いと厚さを明らかにするため、マスクパターンによりNiの堆積領域を限定してプラズマ暴露を行う。処理時間及び温度条件の最適化が進めば、全面への大面積グラフェン析出を狙う。研究が進展すれば、形成されたグラフェンの電子物性が、面内でどの程度の分布を有するかを明らかにする。コンダクタンス測定によるディラック点の鋭さを指標の一つとして、物性としての面内均一性が評価できると予想される。この電子物性の面内測定には電子線リソグラフィーによる微細電極パターンの形成を用いる。以上の研究により、基礎材料特性および電子物性の両面から、本手法の有効性を示すことができると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度の研究費は(1)物品費として真空部品、薬品類、安全衛生用品など、(2)学会発表のための旅費、(3)成果公表のための論文投稿料に使用する予定である。高純度ガス(水素、メタン)、高純度Niターゲット、化学薬品(硝酸、アセトン、エタノール)、超純水フィルター、表面熱酸化Si基板などの実験用物品の支出は2011年と同程度となる予想している。本年度の研究が順調に進展すれば、低温での電子物性測定のための液体窒素、液体ヘリウム費用、プローバー用の金属探針など追加される予定である。場合により、計測や解析用のソフトウェアが追加される可能性がある。また、研究成果の保存に必要な記録メディアなどに追加の支出が必要である。旅費としては、成果公表と情報収集のための国内・国際学会への参加費の計上を予定している。成果のまとまるタイミングと内容により発表する学会を選定する必要があるが、国内学会ではおよそ10万円、国際学会では30万円の旅費を支出予定である。参加人数は1名を予定している。その他の費用として、本研究課題を完結するため、薬品廃液の処理費用、使用する計測器(X線光電子分光装置、ラマン散乱分光装置)のメンテナンス費用などの支出が加わる予定である。また、研究の最終年度として、論文投稿料や外国語論文の校閲料金、報告書の作成費用、インターネットを通じた成果公表のためのwebページ制作費用などの支出が予定される。また、上記の学会参加登録費も支出される予定である。
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