昨年度までに、熱拡散シミュレーションにより固相Ni中のC元素の拡散速度を推定し、界面への炭素析出に必要な処理時間を見積もった。他方、実験においては、Si/SiO2基板を用いてNi薄膜を成長させ、界面への炭素膜の析出を確認した。これらの結果を得て、グラフェン析出に適切であると考えられる結晶性基板と結晶性薄膜の界面を形成するため、サファイヤ基板上へのNi薄膜の堆積を行った。この結果、サファイヤ(0001)面へ570KにおいてNi(111)面がエピタキシャルに成長することが分かった。X線回折測定ではその他の面からの回折ピークが見られないことから、配向性は非常に高いことが示された。他方、この下地層の原子間力顕微鏡による表面観察から、膜厚に比べて十分な平坦性が確認された。これは膜厚の均質性を示すものであり、後述する界面析出グラファイト層の均質性に直接に寄与するものである。 これらの拡散層の上に2から20nm程度の厚さの炭素薄膜を堆積し、870から970Kの温度域において1hの熱拡散を行った。熱拡散直後には膜は茶褐色を呈しており、膜厚が保たれていることが示唆された。これらの試料を希塩酸に浸漬することで、数分から30分程度の時間で、Ni膜が除去されることが確認された。炭素を固溶したNiにおいても、バルクと同様な溶解反応をすることが明らかとなった。Ni拡散層除去後のサファイヤ基板は均質な、ごく薄い灰色の外観があった。表面のラマン散乱測定の結果は、1600cm-1付近にGピークと推測されるブロードな振動モードを示していた。他方、2670cm-1付近には2Dピークは見えなかった。これから、数原子層以上のグラファイト層が形成されていることが示された。以上の結果は炭素量の制御によるグラフェン析出が可能となることを示唆している。
|