研究課題/領域番号 |
23656451
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 周 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10182437)
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研究分担者 |
田中 和彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術専門職員 (20456156)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | めっきプロセス / 金属間化合物 / 応力誘起変態 / 相転移 / モル体積 / 熱力学諸量 |
研究概要 |
初年度となる平成23年度は,高圧測定用試料作製を中心に行った.対象とするFe-Zn系には純鉄相(α相)と純亜鉛相(η相)の間に,Γ相,Γ1相,δ1k相,δ1p相,ならびにζ相の最大5種類の金属間化合物(IMC)相が存在する.これらの中でΓ1相以外は亜鉛を主成分とする液相と共存するため,固液平衡を利用して液体亜鉛層中から単相試料を成長させることが可能であり,本研究ではこの方法により試料作製を行った.その理由はこれらの金属間化合物の亜鉛蒸気圧が比較的高いため,封管法等の方法によっても比較的不均質化が容易に進行するためであり,比重の関係で液相中に沈んで安定にその金属間化合物が存在する条件で,均質試料を作製することができる.また,Γ1相については,Zn-Al-Fe三元系液相を溶媒とした方法でAlを含有するΓ1相が生成することが本研究者により明らかになっており,この方法により大きく成長した試料を得ることができる.この亜鉛を溶媒とする結晶成長により溶融亜鉛めっき操業をしているCGLポット中で大きく成長していることを偶然見いだしたため,実操業CGLポット中から試料採取を行った.これらの試料については,光学顕微鏡ならびにSEM/EDXによる組織観察と,粉末化した試料の粉末X線回折による相同定などの評価を行った. 一方,既設の東大・物性研の共同利用施設におけるダイアモンドアンビル(DAC)を用いた高圧X線回折装置によるFe-Zn系IMC相の常温における相転移挙動調査の予備実験を行った.本研究の対象であるFe-Zn系IMC相の相安定性に関する予備的情報は全くないため,予備実験により必要な圧力ー温度条件に関する予備的検討をする必要がある.本年度は震災の影響等もあり実験は当初の計画に比べて遅れているが,着々と実験の準備が進行している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試料調整・準備では,現在までのところCGLラインで採取したAlを含有したΓ1相が非常に均質で大型の結晶から構成される良質の試料であることが判った.一方,亜鉛浴に純鉄棒を加えて反応させる方法では,ζ相作製においては比較的大きな針状単結晶が形成されること,機械的破砕による亜鉛マトリックスからのζ相分離が比較的容易であることなどが判明し,均質な単相試料が得られることが明らかになっている.当初計画ではその他のIMC相の作製にも着手する予定であったが,他のIMC相作製では高温化による亜鉛液の表面酸化の問題や高い蒸気圧によるダスト発生など,幾つかの問題があり十分に均質な単相試料が得られていないが,これらの多くの問題は順次解決しつつある.来年度前半までにはΓ1相以外のIMC相試料作製は問題なく完了するものと考えており,試料作製に関しては最終的に到達すべき計画のほぼ80%が達成されたと評価している. 一方DAC実験については,試料合成の遅れと震災後の様々な問題により,当初の計画に比較して遅れている部分があり,高圧X線回折測定の準備は終わっているが,DACを用いた実験による臨界相転移圧力の検出に至っていない.今後は後述の方策等により,高圧実験の進捗を高めて計画通りの成果を得たいと考えている.DAC高圧実験に関する現在までの進捗状況は,最終的な達成目標の60%程度の達成度と評価している.
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今後の研究の推進方策 |
試料作製については,初年度でほぼ問題点を解決できたものと考えており,今年度は予定しているΓ1相以外の単相試料を亜鉛浴を溶媒とした方法で順次合成する. 進捗が遅れているDACによる高圧実験をζ相に対してまず実施する.現在の予想では,常温における各IMC相の相転移圧力は純鉄よりも小さく,また温度上昇により低下すると考えており,純鉄粉末を高圧X線回折実験の内部標準とするための試料+純鉄などの混合試料同時測定を試みる.また,現在相転移の臨界圧力の推定に当たって問題となるものと考えられるのは,IMC相の粉末X線回折ピークがいずれもブロードあることで,そのため格子体積の圧力依存性の測定や相転移そのものの検出が困難である場合が考えられる.シンクロトロン放射光による強力X線による測定によって飛躍的な精度の向上が見込めるが,他方ではマシンタイムが限られるという問題点もあるため,同一DAC中に参照物質として純鉄や純亜鉛,異なる回折パターンを有する隣接するIMC相などを共存させて行う複数試料の同時測定法などを開発しながら,効率よく測定を行う予定である. 得られた結果については,純Fe高圧相およびFe基金属間化合物の高圧相との類似性を検討し,この高圧相転移の熱力学的特徴を明らかにするとともに,得られた熱力学関数について計算状態図的アセスメントを行い,高圧相の熱力学パラメータの定式化を行う.以上の方法により,それぞれの金属間化合物の高圧相の特徴と各IMCの熱力学的安定性,ならびに圧縮加工時に予想される挙動を推定し,その成果を学会・国際会議等で発表する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,本格的な試料作製とDACによる高圧実験を実施するために,必要な高純度金属原料や試薬,器具類を購入する.具体的には,一度の溶解で約10kgの高純度亜鉛を溶解し,高純度純鉄棒を浸漬して反応させる.また必要となる金属溶解用るつぼ,表面の反応性を向上させるためのフラックス薬剤,場合によっては空気による亜鉛酸化を防止するための表面被覆用フラックス,ならびに亜鉛浴中に浸漬したIMC試料の均一化焼鈍を石英封管法により行うために必要な石英ガラス等の消耗品を購入する.次年度から実験担当として学部学生を配置する予定であり,研究チームメンバーの柏地区にある物性研高圧共同利用施設,シンクロトロン放射光高圧X線回折実験施設への旅費,年度末の学会での成果発表のための旅費等を予定している.
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