研究課題/領域番号 |
23656451
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 周 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10182437)
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研究分担者 |
田中 和彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術専門職員 (20456156)
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キーワード | 溶融亜鉛めっき / めっき層 / 応力誘起変態 / 相転移 / ダイヤモンドアンビル / X線回折 / Fe / Zn |
研究概要 |
本研究では,合金化溶融亜鉛メッキプロセスで形成されるFe-Zn系金属間化合物の相安定性について,常温から約400℃までの温度域における加工応力条件における応力誘起変態の可能性と,これを考慮に入れた変形モデルによる金属間化合物相の塑性加工の新しい可能性を探ることを目的としている.Fe-Zn系には,Γ,Γ1,δ,ζという4種類の金属間化合物相が存在するが,いずれもα鉄(BCC)の鉄原子を規則的に亜鉛原子で置換した,多くの原子から構成される規則格子であり,この金属間化合物はある温度と応力条件で塑性変形を起こすことが最近の研究から判ってきた.本研究では,塑性変形が応力誘起変態による結晶対称性変化と関与しているとの仮説に基づき,高圧条件下における結晶解説を利用してその相安定性を検討することが目的である.具体的には,ダイヤモンドアンビルを用い,高圧負荷の条件においてX線回折装置を用いた粉末X線回折実験を行って,金属間化合物の結晶の圧縮性と結晶構造変化を調べる.本年度は,Fe及びAlを溶融亜鉛中に添加した際に析出したいわゆるドロス相として生成したΓ1 相とζ相を試料として用い,常温で常圧から30GPaまで圧力条件での測定を行い,Γ1 相では相転移が起こらないこと,ならびにζ相ではhcp相と思われる相への相転移が存在することを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ,Zn液相中で成長した単相ドロス粒子であるΓ1相とζ相について測定を行った.測定には当初の予定通りレバー式DACで約30GPaまで加圧して,各圧力でのXRDパターンをイメージングプレートで記録した.レーザー励起ルビーマーカー法でアンビル内の圧力を測定し,得られた回折パターンを一次元化処理して各種解析に用いた. Γ1相はXRDパターンは変化しないまま30GPaまで格子収縮により高角側へとシフトし,常温では30GPaまでの圧力範囲で相変態が起こらないことが判明した.これは常温では原子の拡散が起こらない無拡散状態にあるため,高圧で安定な結晶構造への原子の再配列が起こらないという速度論的な原因によるものと推定した.また圧力媒体の液体を用いない場合には粒子の配向性が現れ,静水圧性が重要であることも判った.以降の実験はメタノール+エタノール混合溶液を用いたが,この圧力媒体は10GPa以上で固化するため高圧ではわずかに非静水圧性による配向が現れた.得られた常圧安定相であるΓ1相のXRDパターンより求めた体積弾性率は大きな圧力依存性を示し,低圧側では亜鉛に近く高圧側では鉄に近い値を示した.一方,ζ相では,昇圧時には約10~30GPaにおいて無拡散型の相変態が起こりhcp相へと相が変化した.また降圧時には常圧までhcp構造を維持し,一旦高圧相へと変態した場合には,常圧まで高圧相を維持するヒステリシスが生じることが判った. これまで研究されてこなかったFe-Zn系金属間化合物相であるζ相ではじめて相転移が発見された.この研究の作業仮説である高圧における稠密相への相転移をはじめて実証したという意味でも大変価値の高い結果が得られたと判断される.
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今後の研究の推進方策 |
今回の一連の実験ではΓ1相とζ相の2種類の試料についてのみ測定を行うことができた,これは回折線の強度が小さく,1つの圧力条件における測定におよそ24時間を費やしたためである.測定の効率化・迅速化,ならびに高精度化の観点からもシンクロトロン放射光施設の強力X線源を用いた高圧回折実験へとシフトする必要がある.今回の実験で高圧相の存在が明らかになったζ相については,hcp構造と考えられる高圧相の結晶構造解析やその機械的諸特性の測定も必要である.また,現時点は様々な制約から測定温度も常温に限られており,局所的な原子再配列が不可能であるために生じた速度論的問題により相転移や逆相転移が生じない可能性も否定できない.温度依存性やヒステリシス解消の熱活性化過程の速度論的解析など,今回の新規な発見を補強し発展させるための追加実験が不可欠である. 今回の発見を理論的な観点から議論するためには,第一原理計算による理論弾性率の算出や結晶解析に基づいたDFT計算による結晶エネルギーを基にした相安定性の議論など,多くの今後の課題が明らかになった.このため研究期間を延長し,常温における他のFe-Zn系金属間化合物相の測定に集中して,高圧相への相転移の有無をまずは明らかにしたいと考えている.時間的に余裕が生じた場合には,高温(常温から300℃)測定を行って,高温での急速な相転移圧力の低下やhcp相からfcc相への高圧相構造の変化を明らかにしたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度は,積み残された課題である常温におけるΓ相,δ1相の高圧による相転移挙動について測定を行い,全体像を把握する.また高温測定についても挑戦して,温度による相転移挙動の変化,特に相転移圧力と高圧相の結晶構造に注目して高圧X線回折実験を行う. これらの実験を行うための試料調整のための試薬類などの消耗品を購入する.また実験施設(東大・物性研,KEK-PF,SPring-8)への旅費に充てる.また一部の成果を発表して当該分野の専門家との議論をするための学会出張経費にも充てる.
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