当該研究は、材料表面層の深さ方向の温度勾配の定量評価に関する新しい知見を得るとともにその非破壊モニタリング手法を創出することを目的としている。本年度は、昨年度の結果を基に、表面温度勾配の定量的評価に関して数値シミュレーションと実験の両面から検討を行なった。主な結果は以下のとおりである。 (1) 表面温度勾配の定量評価に関する数値シミュレーションによる検討 Bi数を指標とした理論的検討によって、多くの工業金属材料(鋼、アルミニウム)では通常環境下では数ミリメートル以下の表面層に急激な温度勾配をある一定時間、安定的には存在させるのは難しいことがわかった。そこで、まず、差分法を用いた数値シミュレーションにより、温度勾配を有する材料表面上の弾性表面波の分散特性評価を行い、温度勾配と無次元周波数分散の関係について調べた。その結果、表面波分散による温度勾配の評価は理論的には可能であるが、現実に予想される音速測定の実験誤差を考慮すると、実用レベルで信頼性のある温度勾配の定量計測は現状ハードウェアでは難しいことがわかった。 (2) 非接触超音波法の適用に関する検討 上記の結果に基づいて、比較的緩やかな温度勾配の評価を試みることとした。ここでは、直径10mmから100mmの鋼性円柱を対象として、その表面加熱時の深さ方向の温度勾配のモニタリングを行った。まず、レーザー超音波法を援用した加熱材料の表面波計測システムを構築した。このシステムを用いた円柱表面近傍の温度勾配の非接触定量評価法を提案した。ガスバーナで加熱した円柱に同システムを適用し、円柱の表面温度ならびに表面近傍の温度勾配を定量的に評価・モニタリングした。得られた結果は赤外線カメラによる円柱側面温度計測結果とほぼ一致したことから、ここで提案した手法の妥当性が示された。これにより超音波法による表面温度勾配計測の基礎が築かれたものと考える。
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