研究課題/領域番号 |
23656455
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鎌土 重晴 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (30152846)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 熱間圧延 / 動的再結晶 / 結晶粒径 / 規則GPゾーン / 双晶変形 / プレス成形 / 機械的性質 |
研究概要 |
マグネシウム合金の室温成形時に発生する双晶を抑制するとともに、非底面すべりを活性化し、室温成形を目指す方法として、今年度は主として微細分散化合物の利用による動的再結晶粒の微細化と集合組織の緩和、さらには延性および成形性の改善を目指した。 具体的には、Mg-RE-Zn合金の圧延板(F材)を作製し、ミクロ組織、変形挙動、引張特性および成形性に及ぼすZn量や熱処理条件の影響を調べた。Zn量が少ないほど、圧延まま材(F材)のせん断帯領域が多くなり、均一な組織となる。圧延によりMg-Zn-RE化合物は分散し、Zn量の減少に伴って化合物サイズおよび面積率は小さくなるものの、再結晶核生成サイトとなる化合物が微細に分散するため、動的再結晶が容易に生じ、化合物回りの再結晶粒の集合組織の集積度は低下し、ランダム配向化が進む。その結果、室温では焼なまし材(O材)の方がF材より流動応力が低く、伸びが大きいものの、250℃ではF材の方が圧延中の残留ひずみの効果も加わり、変形初期から動的再結晶が生じやすくなり、O材より低流動応力で変形し、伸びも大きくなる。特に、Znを3%添加した合金のF材では微細な動的再結晶粒が均一に分散し、それらが粒界すべりを促進し、250℃でも210%の高延性を示す。さらに、既存マグネシウム合金は通常250℃程度で深絞り成形されるが、本合金の175℃における限界深絞り値は2.3と、アルミニウム合金や鉄鋼材料と同等の値を示し、低温成形への可能性を見出した。さらに、Mg-Al-Ca-Mn系合金でも微細なAl-Mn化合物や規則GPゾーンの形成により再結晶粒径が微細化され、かつ底面集合組織が緩和されることも見出した。 以上のように、微細分散化合物、規則GPゾーンを利用した動的再結晶により結晶粒の微細化およびランダム配向化が達成され、良好な延性および成形性が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度目標としていた化合物微細分散を利用した動的再結晶による結晶粒微細化と底面集合組織の緩和に成功し、低温での延性およびプレス成形性改善に有効な組織制御技術であることを見出していている。さらに、化合物を熱間圧延中に微細分散させることにより、従来既存マグネシウム合金中で報告されている、圧縮双晶中に引張双晶が生じる二重双晶を伴った動的な連続再結晶に加えて、Particle Stimulated Nucleation(PSN)が生じ、動的再結晶が促進されるとともに、再結晶粒微細化および底面集合組織の緩和に大変有効であることも明らかにしている。これらの成果は今年度予定しているMg-Al-Ca-Mn系合金における熱間圧延中あるいは熱処理により導入されるナノスケールのAl-Mn化合物、規則GPゾーンおよび板状析出物が更なる再結晶粒微細化および底面集合組織の緩和に有効に働くことを示唆しており、その結果として室温成形の可能性が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、規則GP ゾーンを析出するMg-Al-Ca合金の圧延条件-熱処理条件の最適化を図る。それにより(1)動的な再結晶・析出を利用し、圧延工程で結晶粒を微細化させるとともに、(2)GP ゾーンを母相に均一微細に分散させる。その圧延工程としての、(i)粗圧延では高温・大圧下にて結晶粒の微細化を促進し、(ii)仕上げ圧延では低温・高速圧延により動的析出を伴った動的再結晶によりナノオーダーまでの結晶粒微細化を達成する。その後の熱処理工程にて、規則型析出物を母相に均一分散させ得る条件を選定し、双晶の起源となる原子のシャッフルの抑制と非底面すべりの活発化を達成し、室温板成形への組織制御指針を得る。 具体的には析出相を規則GP ゾーンとし、更に高密度の微細析出物を分散することで原子のシャッフルを抑制し、双晶発生を防ぐ。そのための合金としてMg-Al-Ca 合金を選定する。本合金中の合金元素としてのAl の原子半径はMg の原子半径よりも小さく、Ca の原子半径はMg の原子半径よりも大きく、さらにAl とCaの熱力学的なポテンシャルは引力型を示すことから、底面に平行な1 原子層にMg、Al、Ca が規則配列することでGP ゾーンが生成することがわかっている。これらの合金をスタート材料として、最適圧延条件の選定を行い、最適熱処理条件を選定する。さらに、本合金系では熱的安定性も兼ね備えた規則GPゾーンあるいはMg-Al-Ca系化合物が熱間加工中に動的析出し、それらの析出物が動的再結晶粒の粗大化を抑制するピン止め効果を発現するとともに、高温でも双晶変形を抑制するため、動的再結晶メカニズムそのものも、既存のMg-Al-Zn系合金とは異なり、再結晶粒のランダム配向化が促進される。従って、本研究ではこれらの動的再結晶メカニズムの解明に基づいて圧延加工条件の最適化を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
「物品費」として300千円を計上し、各種合金溶製に必要とされる原料として、高純度のマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、およびAl-Mn母合金等を購入する。鋳造時の金型離型剤として必要な窒化ボロン(BN)や金型磨き用の消耗品を購入する。また、圧延用消耗品として、プロパンガスや酸素ガス、ロール表面研削用の消耗品、圧延材のロールへの焼付けを防ぐための離型剤を購入する。試料の組織解析のための研磨材、薬品等の購入にも当てる。 「旅費」として250千円を計上し、マグネシウム合金の塑性加工と再結晶、動的・静的析出メカニズム、ナノ・ミクロ組織解析等に関する情報収集のための調査研究旅費、日本金属学会、軽金属学会で開催される国内会議、での成果発表旅費に使用する。 「謝金等」として100千円を計上し、合金溶製、圧延加工、深絞り・張出し成形加工、組織解析、特性評価等の実験を大学院学生に依頼する予定で、その研究補助のために使用する。 「その他」として50千円を研究成果発表表用として計上する。
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