研究課題/領域番号 |
23656462
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 学 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (20243272)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 材料加工・処理 / 可視化 / プラズマ加工 / 流体工学 / 金属生産工学 |
研究概要 |
本研究では、2台の電源と電極ワイヤへの2カ所の給電により、溶接として必要な熱の制御と、アークの安定化として必要な力の制御を分離するための科学を明らかにするとともに、高速クリーンGMA(ガスメタルアーク)溶接プロセスを実現するための、熱と力の分離制御技術の創成を目的とする。 平成23年度では、まず、実験装置を構築した。具体的には、熱の発生を担当する溶接電源と、力の発生を担当するプラズマジェット誘起電源の2台から構成される。次に,2段給電可能なGMA溶接トーチの試作を行った。具体的には、従来の自動機用GMA溶接トーチを改造し、プラズマジェット誘起用給電チップを内蔵させた。特に、耐摩耗性に優れ、電極ワイヤの送給安定性が良好なように、溶接用給電チップの下流域に位置するプラズマジェット誘起用給電チップの材質、形状、穴径等を工夫した。 実験観察では、ビード・オン・プレート溶接を行い,プラズマジェット誘起電流を変化させ、2段給電式と従来式の溶接アーク現象を比較検討した。現象の観察には、高速度デジタルビデオカメラを用いるとともに、溶接電流、プラズマジェット誘起電流、およびアーク電圧の測定を行った。その結果、同じ電極ワイヤの送給速度でありながら、従来式に比べて2段給電式では、明らかに余盛角の小さい、ぬれ性の良い溶接ビードが得られた。これに対して、高速度デジタルビデオカメラを利用した二色放射温度測定により電極ワイヤ先端部の表面温度を測定した結果、従来式に比べて2段給電式では、表面温度が明らかに上昇していることがわかった。 以上の知見により、2台の電源と電極ワイヤへの2カ所の給電により、熱と力の分離制御が実現されていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画どおり、熱の発生を担当する溶接電源と、力の発生を担当するプラズマジェット誘起電源の2台から構成される実験装置を構築した。加えて、2段給電可能なGMA溶接トーチの試作を行った。本試作にあたって、当初計画にはなかったが、溶接用給電チップの下流域に位置するプラズマジェット誘起用給電チップの材質、形状、穴径等を工夫した。その結果、電極ワイヤの送給安定性が良好で耐摩耗性に優れた、2段給電可能なGMA溶接トーチの試作を達成した。 一方、実験観察では、同じ電極ワイヤの送給速度でありながら、従来式に比べて2段給電式では、明らかに余盛角の小さい、ぬれ性の良い溶接ビードが得られた。これに対して、当初の計画にはなかったが、高速度デジタルビデオカメラを利用した二色放射温度測定により電極ワイヤ先端部の表面温度を測定した。その結果、従来式に比べて2段給電式では、表面温度が明らかに上昇していることを定量的に把握できた。 以上の知見により、当初計画よりも一歩進んで、2台の電源と電極ワイヤへの2カ所の給電により、熱と力の分離制御が実現されていることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では、まず、我々の研究グループのオリジナルで実績があるGMAの数値解析モデルに2段給電を考慮に加えるよう拡張する。本モデルは「電極ワイヤ-アークプラズマ-溶融プール」を同時に一体化して計算する軸対称2次元の電磁熱流体モデルである。電極ワイヤ突出し部でのジュール加熱や高温プラズマの発生など熱に寄与する溶接電流の割合と、電磁ピンチ力に寄与するプラズマジェット誘起電流の割合を定量的に出力し、熱の制御と力の制御を分離するための科学を解明する。 数値計算の結果と平成23年度の実験観察の成果を比較検討し、さらに、母材として純アルゴン雰囲気下での溶接を必要とするステンレス鋼での実験観察を加えることにより、様々な溶接電流に対する最適なプラズマジェット誘起電流および給電点の普遍的条件を見出し、高速クリーンGMA溶接プロセスを実現するための、熱と力の分離制御技術を創成する。 最後に、得られた結果を取り纏め、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は、平成23年度に得られた研究成果発表のための旅費に充てるとともに、数値計算シミュレーションの妥当性評価ならびに追加実験観察のため、試験片、シールドガス、給電チップ、電極ワイヤ等の消耗品を購入するための物品費に充てる。
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