本研究では、2台の電源と電極ワイヤへの2カ所の給電により、溶接として必要な熱の制御と、アークの安定化として必要な力の制御を分離するための科学を明らかにするとともに、高速クリーンGMA(ガスメタルアーク)溶接プロセスを実現するための、熱と力の分離制御技術の創成を目的とする。 前年度に構築した2段給電可能なGMA溶接システムを用いて、各種パラメータが溶接アーク現象に及ぼす影響について調査した。溶接アーク現象は、高速度デジタルビデオカメラによって観察するとともに、溶接電流、プラズマジェット誘起電流、およびアーク電圧の測定を行った。特に、電極ワイヤ先端部の揺動と溶滴の形成・離脱に与えるプラズマジェット誘起電流および給電点の位置の影響を実験的に調査した。その結果、1段目と2段目の給電点の位置が離れるほど、かつ、溶接電流を抑えてプラズマジェット誘起電流を高く確保する条件において、2段給電の効果が大きく出現した。従来のGMA溶接と比較した場合、同じ合計電流でありながら溶接部の溶込みが約2倍に増加することが明らかになった。 さらに、多段給電を考慮に加えたGMAの数値解析モデルを構築した。電極ワイヤ突出し部でのジュール加熱や高温プラズマの発生など熱に寄与する溶接電流の割合と、電磁ピンチ力に寄与するプラズマジェット誘起電流の割合を定量的に出力し、熱の制御と力の制御を分離するための科学を解明した。その結果、2点の給電点間におけるジュール加熱が2段給電の効果の重要なファクターであり、それは双方の給電点における電流配分によって制御されていることが定量的に明らかになった。 以上により、溶接電流とプラズマジェット誘起電流の最適バランス、および給電点の最適位置が存在することを確認し、高速クリーンGMA溶接プロセスを実現するための,熱と力の分離制御技術の創成に成功した。
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