昨年度は膜を用いた単分散リポソームの調製が可能であることを示した.最終年度は,膜の細孔径,脂質濃度,脂質溶媒の種類が,リポソームの構造と性質に与える影響を詳細に検討した. 膜の細孔径が異なる0.2μm,0.5μm,1.1μmの3種類の膜を用いてリポソームを調製したところ,いずれも単分散で,粒径が100nm程度のリポソームとなった.これらの粒径は,膜の細孔径と比べて十分小さい.また脂質濃度が異なる10mM,1mMの2種類のアルコール溶液を用いてリポソームを調製したところ,脂質濃度に依らず,単分散で粒径が100nm程度のリポソームとなった.さらに脂質溶媒としてイソプロピルアルコールとエタノールの2種類を用いてリポソームを調製したところ,脂質溶媒に依らず,単分散で粒径が100nm程度のリポソームとなった.イソプロピルアルコールとエタノールは水への溶解度は極めて高いため,膜細孔径より小さなリポソームが調製されたのは,脂質溶液が膜細孔を通過すると直ちにアルコールの水への溶解拡散が起こり,脂質が自己集合するためだと考えられる.すなわち膜を用いることにより,膜長さ方向に対して均一なリポソーム形成界面を提供していると言える. 得られるリポソームの構造は,膜の細孔径,脂質濃度,脂質溶媒に依らなかったが,脂質溶媒がリポソームの膜の流動性に影響を与えることが明らかとなった.具体的には,イソプロピルアルコールを脂質溶媒として用い調製したリポソームは凍結融解を繰り返すことで粒径が増加するのに対し,エタノールを脂質溶媒として用い調製したリポソームは凍結融解を繰り返しても粒径が変化しなかった.極めて興味深い現象であるが,この理由を明らかとするには至らなかった. 上記成果に関して,第11項に記載した研究発表の他に,学術論文を1報投稿中であり,学会発表を1件予定している.
|