研究課題/領域番号 |
23656498
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
迫口 明浩 崇城大学, 工学部, 教授 (30196141)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 微粒子 / 貫通型細孔 / マルチエマルション / 固定化酵素 / 糖 |
研究概要 |
本研究課題では、マルチエマルションの溶液構造を利用して、貫通型細孔を有する微粒子の新たな調製法の開発を行い、得られた微粒子の応用として固定化酵素への利用を試みる。すなわち、酵素、ポリマーおよび糖類をO/W/O型マルチエマルションの水相中に共存させ、これら3成分の液相系での特異的な分子間相互作用から形成されるナノ構造と、O/W/O型マルチエマルションの持つマイクロ構造を、このマルチエマルションの凍結乾燥という簡便な方法によって保持させた微粒子を作製する。この微粒子の調製条件を種々検討することから、含有される酵素の機能を強化した微粒子を創製する。 これまでに2種類のリパーゼを用いて検討した結果、担体として用いたPEGの濃度などを最適化することにより貫通型細孔を有する微粒子を得ることができた。とくにリパーゼSM(Serratia marcescens起源)を固定化した微粒子では、調製時に糖としてトレハロースを添加したことで酵素活性が増大した。 そこで平成23年度では、これらの結果を踏まえ、プロテアーゼの一種であり、水溶性タンパク質に分類されるスブチリシン(Subtilisin Carlsberg起源)を選択し、マルチエマルションを活用した貫通型細孔を有する微粒子の調製と、この微粒子の非水媒体中での酵素活性発現の可能性を検討した。その結果、有機溶媒中で酵素活性を発現する貫通型細孔を有する微粒子の調製に成功した。また、この固定化スブチリシンはリビトールや、トレハロースなどの添加によりさらに酵素活性が増大したのみならず、その活性を長時間維持できる可能性が明らかになった。本固定化法はリパーゼおよびプロテアーゼの、有機溶媒中における酵素活性発現に有用であることが示唆された。さらに糖類の添加効果と組み合わせれば、他のタンパク質についても有機溶媒中での利用が可能になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、マルチエマルションの水相(緩衝液)に酵素、その固定化担体であるポリエチレングリコール(PEG)および糖類(トレハロース等)を水相に溶解させた。そして、凍結乾燥機でこのO/W/O型マルチエマルションを凍結乾燥させた。得られた微粒子を顕微鏡観察(SEMなど)し、微粒子の形態上の特徴とO/W/O型マルチエマルションの調製条件(水相pH、緩衝液の種類、PEGの分子量や濃度、糖類の種類や濃度など)との関係を検討し、貫通型細孔を有する微粒子の調製条件を検討した。とくに今年度、リパーゼのみならず、プロテアーゼについても検討を始めた。 種々の条件で調製された微粒子を用いて非水媒体中でのエステル合成反応を行い、生成物であるエステルの生成量をガスクロマトグラフによって追跡し、得られた反応の初速度を酵素活性の指標として、基質や反応条件を変えて酵素活性を測定し、貫通型細孔を有する微粒子の酵素機能を評価した。とくに、再利用性を調べて、この微粒子中の酵素の安定性を検討した。とくに、O/W/O型マルチエマルションの調製条件(水相pH、緩衝液の種類、PEGの分子量や濃度、糖類の種類や濃度など)、微粒子の形態、酵素活性との関連を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度までに検討した酵素に加えて、起源の異なるリパーゼやプロテアーゼを用い、これら酵素を含有した微粒子を作製し、この微粒子の形態を顕微鏡観察し、微粒子が貫通型細孔を有するための条件を解明する。 得られた種々の酵素を含有する微粒子の非水媒体中でのエステル合成を試みて酵素機能を検討する。さらに、酵素の固定化担体としてPEGおよびこれ以外の高分子を、糖類としてトレハロースおよびこれ以外の種々の糖類を用いて、貫通型細孔を有する微粒子に固定化された酵素の調製とその酵素機能を検討する。 さらに、酵素活性および形態の異なるいくつかの微粒子を選び、微小流路へ充填してマイクロバイオリアクターとしての基礎的検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度中盤において、調製した微粒子の酵素活性を測定する際に用いるガスクロマトグラフの不調が断続的に続いた。当初、研究室のメンバーで対応していたが、ついにはメーカーと相談して部品の交換修理を行った。その後、ガスクロマトグラフの運転操作と保守管理に細心の注意を払いながら酵素活性の測定を行い、幸い機器にトラブルは生じなかった。しかし、平成23年度後半においてはガスクロマトグラフの故障にすぐ対応できるように予算の使用を工夫せざるを得なかった。すなわち、当初予定していた旅費、人件費・謝金を凍結し、物品費を最小限に抑えて、研究室にストックしていた消耗品等を効率よく使用するようにした。平成23年度末まで、このような状況が続いたために、「収支状況報告書」に記載されているような「次年度使用額」が発生した。 その結果、測定できなかった期間が生じたことによる実験計画の修正と、当初の予定より少ない起源の異なる酵素について検討することになるなど、残念ながら実験量の縮小が生じた。 現在、ガスクロマトグラフは順調に運転できているので、平成23年度に凍結および縮小していた実験および研究計画を組み入れて平成24年度の研究を実施していく予定である。とくに、起源の異なる酵素を含有する微粒子の調製条件と微粒子の形態および酵素機能について幅広く検討したい。そのためには、酵素を含めた各種試薬、ガラス器具など実験に必要な消耗品を多数購入する必要がある。そこで、平成23年度の残金(「収支状況報告書」の「次年度使用額」)を平成24年度に予定していた予算(直接経費の物品費、旅費、人件費・謝金)に加えて使用させていただきたくお願い申し上げます。
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