本申請研究は水素エネルギーの大規模利用を実現する、より低温での水素の貯蔵・放出が可能な新規有機ハイドライドシステムの開発を目的としている。申請者は、これまでに金属ナノ粒子と担体による協奏効果により発現する、特異な触媒作用を明らかにしてきた。この知見を基に、新規銅ナノ粒子固定化触媒を開発し、現在の有機ハイドライドシステムに用いられている高価な稀少金属触媒を経済性に優れた銅触媒で代替することを目指した。 金属ナノ粒子は、担体及び前駆体の配位子の影響を受け、粒子を構成する金属原子の電子状態や粒子の形状・サイズが変化することが知られている。また、これらの担体・粒子サイズは、液相有機合成反応において高い触媒活性を達成するための最も重要な因子のひとつである。種々の担体効果を検討した結果、チタニア上に調製した銅ナノ粒子触媒が、含窒素芳香族化合物であるテトラヒドロキノリンの脱水素反応・水素化反応において反応温度150度で効率よく上記反応を可逆的に進行させることを見出した。従来の銅触媒による有機ハイドライドシステムでは水素化反応を進行させるため、30気圧以上の水素圧が必要であったが、本有機ハイドライドシステムでは一気圧の水素で十分に水素化反応が進行する。さらに、本触媒の耐久性を検討したところ、上記可逆反応を複数回行っても活性・選択性を維持したまま再使用が可能であることがわかった。この触媒構造解をSPring-8のXAFS測定や高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)観察により行ったところ再使用後の銅ナノ粒子は反応前と比べ、粒子の凝集等が起こらないことがわかった。つまり、チタニアと銅ナノ粒子との強い相互作用により高い耐久性が生まれることが示唆された。
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