本研究では、細胞のdeformability(変形能)を網羅的且つ定量的に計測する技術を開発し、細胞の幹細胞の分化や正常細胞のがん化などの進行度とdeformability(変形能)の相関性について評価することを目的とした。 はじめに、細胞のdeformability(変形能)の定量的評価を目的として、単一細胞を高密度に捕捉するマイクロキャビティアレイ基板を利用し、10万個の細胞を同時並列に吸引変形させる測定装置を開発した。また、共焦点顕微鏡を用いた細胞の3次元イメージング法の検討、核質・細胞質・各種骨格タンパク質の染色法について検討を行った。撮像法および画像解析法の検討により、マイクロキャビティアレイ上に捕らえた細胞の3次元画像構築及び輝度・距離の定量的計測方法を確立した。本手法により、微細貫通孔内部への細胞の変形陥入長や細胞質と細胞核の変形長の比などについて、多数の細胞を対象として同時多並行に計測することが出来る。諸検討の後、モデル細胞としてヒト乳がん細胞MCF-7及び正常ヒト乳腺細胞MCF-10を用いて、微細貫通孔内部への細胞の変形陥入長を計測した。この結果、細胞に印加する吸引圧が大きくなるほど、細胞の変形は大きくなる傾向がある事が確認された。特に、正常細胞に比べ乳がん細胞では変形長が大きく、2種の細胞間で有意な差が確認された。これは、細胞骨格タンパク質及び核構造タンパク質の発現量に依存すると考えられたため、F-actinおよび核を染色した細胞の3次元観察を行った。 この結果、MCF-7の場合では細胞質とともに細胞核も吸引圧により変形を受けていること、F-actinの発現量が正常細胞に比べて低いことが確認された。本技術により、数百から数万個の細胞の変形能を網羅的に解析可能であることが示された。さらに、技術を高度化することにより幹細胞の分化進行度の評価指標にも応用可能であり網羅的解析の実現が期待される。
|