研究課題/領域番号 |
23656531
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50302766)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | セルロース / セルラーゼ / イオン液体 / バイオマス / 酵素糖化 |
研究概要 |
近年、再生可能なエネルギー資源であり、食糧と競合しないセルロース系バイオマスからの物質・エネルギー生産が注目を集めている。本研究では、セルロース系バイオマスから、簡便かつ効率よく単糖類(グルコース等)を取り出すための革新的糖化プロセスの構築に向け、結晶性セルロースを非結晶化する新規溶剤の開発を通して、1バッチ・1ステップでセルロース系バイオマスからグルコースを生産するための水ー疎水性イオン液体二相系プロセスの構築を目的として検討を行った。 まず、カチオン/アニオン部位の官能基を変えた市販および新規合成疎水性イオン液体を22種類選抜し、これらに結晶性セルロースを添加し、加熱前処理した後に、セルラーゼ水溶液を添加することで水ー疎水性イオン液体二相系を形成させ、酵素糖化反応を試みた。その結果、疎水性イオン液体の種類により、酵素糖化効率において数%~70%程度の開きが観察された。特に、イオン液体のカチオン部位の分子構造が結晶性セルロースの界面酵素糖化反応効率に影響を与えることが明らかとなった。また、二相系の形成はセルラーゼ活性に影響を与えなかったことから、その効果はイオン液体種に依るものであることが明らかとなった。さらに、カチオン部位はイミダゾール系が好ましく、カチオン部位側鎖への水素結合受容性の官能基の付与が効率化の鍵を握ることが明らかとなった。 以上の成果に基づき、既往のセルロース溶剤であるジメチルアセトアミド部位をイオン液体のカチオン部位に導入した新規疎水性イオン液体の合成を試み、これに成功した。さらに、合成した新規疎水性イオン液体は塩化リチウムを溶媒中に保持すること、その状態で結晶性セルロースを添加して加熱することで、二相系酵素糖化反応の効率が向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セルロース前処理のための新規溶剤の開発については、カチオン/アニオン部位の官能基を変えた新規疎水性イオン液体の構造が結晶性セルロースの溶解/構造緩和に与える影響について、22種類の疎水性イオン液体中に結晶性セルロースを添加し、これらが形成する水ー疎水性イオン液体二相界面での酵素糖化反応について詳細な検討を行い、十分な基礎的知見が得られた。一方、二相系界面形成により生じる再生セルロースの分光学的解析(赤外吸収、X線回折パターン等)について、より詳細な評価が必要である。 また、水ー疎水性イオン液体界面共存系における市販セルラーゼの触媒挙動については、水―有機溶媒二相系と異なり、セルラーゼの失活を伴わずにその触媒機能が維持される系を構築可能なことが明らかとなった。そこで、次年度においては、セルラーゼを界面に能動的に濃縮するための新規イオン液体の合成と、セルラーゼの界面濃縮がセルロース糖化に与える効果を検証する。 研究開始時に掲げた何れの検討項目においても、おおよそ計画通りに研究は遂行できており、研究を進める過程において、新たなイオン液体の分子設計に関するアイデアが得られ、これを実践できた点には満足している。次年度においては、セルラーゼ側からのアプローチに力点を置いて検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた成果と、既往のセルロース溶剤を構成部位として有するイオン液体を用いた詳細な評価を通して、望みの性質を与え得る疎水性イオン液体を選抜・合成し、これらが構成する異相系液液界面がセルラーゼ活性ならびに安定性に与える効果を調査する。 また、セルラーゼを界面に能動的に濃縮するため、ポリヒスチジンに高親和性を示す金属キレート部位が導入された新規イオン液体の合成と、ポリヒスチジンタグがNあるいはC末端に挿入された組換えセルラーゼを調製し、セルラーゼの界面濃縮がセルロース糖化に与える効果を検証する。具体的には、遺伝子工学的にNあるいはC末端にアフィニティタグを融合させた界面配向型組換えセルラーゼを、糖化酵素系を構成する主要酵素について取得し、水ー疎水性イオン液体二相系における酵素糖化反応効率(速度)を評価する。 上記の検討結果を踏まえ、水ー疎水性イオン液体界面への組換えセルラーゼの界面への濃縮がセルロース糖化に与える影響を定量的に評価することを試みる。疎水性イオン液体を含んで膨潤したセルロース表面へのセルラーゼ吸着挙動(濃縮過程)、異相界面形成能、酵素糖化促進効果、酵素の安定性に与える影響を精査する。また、繰り返し利用時における疎水性イオン液体の再利用性(リサイクル)を評価し、産業利用上の優位性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
交付申請書に記載の通りに執行予定である。特に、セルラーゼの調製とイオン液体の合成に関する試薬類についての支出が中心になる。但し、初年度に比べ物品費が半減しているので、初年度に得られた成果に基づき、検討項目を十分に絞って検討を進める必要がある。
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