研究課題/領域番号 |
23656532
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
原 正之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50344172)
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研究分担者 |
森 英樹 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30450894)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経幹・前駆細胞 / 光増感色素 / 活性酸素 / apoptosis / 神経細胞 / グリア細胞 / ABC transporter / necrosis |
研究概要 |
我々は、以前にも神経系の細胞に対するX線照射やROSの影響を研究してきたが、今回は培養した神経幹/前駆細胞を用いて光増感色素の細胞外排出能とROSの感受性などを調べた。ICRマウス胎仔脳由来の神経幹細胞/前駆細胞(mNSPC)をneurosphere法で培養し、光照射下でROSを生じる光増感色素(PS)による細胞の傷害と死滅を検討した。rhodamine 123 (RH)とhematoporphyrin (HP)は時間依存的に細胞に取り込まれ、ABC transporter の阻害剤存在下で取り込みが増加したため、一度細胞内に入った色素RHはABCB1、HPはABCG2というABC輸送体により細胞外に排出されると考えた。強光照射下では、RHおよびHPより濃度と時間に依存してROSが生じることを確認した。ROSにより細胞が傷害され、その機構としては、apoptosis(アポトーシス)とnecrosis(壊死)の両方が起きることを確認した。この光依存的な細胞の障害は、今回の試験条件では有意な阻害剤依存性を示さなかった。Sox 2, CD133, nestin等のマーカーを用いた免疫組織化学的検討により、未成熟なmNSPCは分化後の細胞よりもROS感受性が高い事を示した。我々は今回、ABCB1aが培養したmNSPCで高く発現していることをRT-PCRにより確認した。これらの薬剤排出ポンプが阻害剤依存的に光増感色素のRHとHPを細胞外排出活性を示したものと考えている。また、光照射下ではROSが発生して同細胞を死滅させるが、こちらは少なくとも今回試した条件では阻害剤に依存しなかった。一般に、未分化なmNSPCは分化後の細胞よりROS感受性が高い事が知られている。光増感色素を用いて特定の組織や細胞種に対して局所的に細胞にROSを作用させる技術は、他の実験にも今後利用できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I.活性酸素の発生、光増感色素排出能、光増感度反応による細胞死滅、の基礎実験I-a)光増感色素から生じる活性酸素の種類と発生量の測定: 可視光照射により生じる活性酸素分子種の種類の判別と発生量測定を行う(比色定量法、等)。I-b)光増感色素排出能の確認。当該の幹細胞における、薬剤排出系の発現、光増感色素の細胞外排出活性を確認する。I-c)至適な光強度、照射時間、光源の検討。光増感色素の種類、濃度、光照射時間の違いによる光照射後の細胞生存率を測定する。II.細胞の分化能の障害についての評価: II-d)各種の未分化および分化マーカーに対する抗体を用いた、各分化段階の細胞の存在比率の解析。II-e)幹細胞量の推定のためのコロニー形成率、増殖率測定。II-f)細胞障害マーカー遺伝子の発現量の解析(免疫組織化学染色、他)。上記の研究計画に沿い、マウス胎児脳由来の幹・前駆細胞を培養し、光増感色素の取り込み能や、光増感色素存在下での可視光照射による活性酸素発生、細胞の生死判別と、apoptosis, necrosis を調べる実験を行ったという点では、ほぼ順調に進展している。但し、可視光照射による細胞の選択的死滅により分化細胞、未分化細胞を選別するには至っておらず、この点は今後さらに検討が必要である。色素の濃度や光強度、照射時間など様々な因子をさらに変化させることが必要かもしれないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年次に、マウスの神経幹・前駆細胞(mNSPC)を用いて細胞の死滅に関する基本的な実験系を確立したので、分化細胞、未分化細胞を選別を可能とするような条件をさらに探索するとともに、他の細胞種(マウスで無く、ヒト由来の神経幹・前駆細胞(hNSPC)、またはラットの間葉系幹細胞(rMSC)等)においても、申請書に記載の各項目について検討を行なう予定。III.細胞障害の定量的評価と細胞傷害機構の検討: III-g)細胞における薬剤排出系の発現・機能の確認と検証III-h)薬剤排出条件の検討 III-i) 酸化ストレスに応答する遺伝子の発現解析 III-j) 細胞傷害機構の解析 光増感色素による細胞傷害時の、細胞の生死判別、apoptosis、necrosisの判別と定量的評価。IV.細胞選別条件の設定と確認: IV-j) 上記のI,II,IIIの基礎データを基にした細胞選別条件表の作成 IV-k)選別に用いる条件をひとまず決定し、当該条件での照射により目的の細胞種が照射前に比べて何倍に濃縮されたのかを評価する。必要に応じて、初めに設定した細胞選別の為の実験条件を修正する。 IV-l)光照射パターンの違い(持続、休止時間など)による細胞選別効率の評価。
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次年度の研究費の使用計画 |
概ね、下記の支出を予定している(研究の進展具合により多少の変更の可能性あり)。物品費:700,000 円程度・・・試薬類、細胞培養用の培地、実験動物、培養用のフラスコおよびシャーレ、チューブ類、ピペットマンチップ等の消耗品を中心に購入する。今のところ大きな備品の購入は想定していないが、研究の進展具合によっては光照射実験等に関わる器具を一部購入する可能性はある。旅費:140,000円・・・東京―大阪間の交通費・宿泊費(研究情報の収集の為)、大阪―仙台間の交通費・宿泊費(日本バイオマテリアル学会)、等人件費・謝金:350,000円・・・補助員の雇用費、並びに投稿論文の英文校正、学会参加費、論文投稿費、その他。
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