研究課題
本年度は、ナイロン酵素分解の定量的評価系の構築について検討した。ナイロンは安定な結晶領域形成により強固な構造を有する。しかし、温度上昇に伴い、分子間水素結合が緩和し、ナイロンの酵素分解が期待できる。そのためには、熱安定性の高い酵素が必要である。本研究では、親型のナイロンオリゴマー分解酵素(NylC)にG122-Y130-A36-Q263の4アミノ酸置換が導入され、Tm値が88℃まで向上した変異酵素を用いて、ナイロン6の分解を検討した。 酵素反応によるナイロン6の分子量の変化を測定するため、ガスクラスター二次イオン質量分析 (GC-SIMS)を行った。GC-SIMSでは一次イオンに気体分子を分子間力により一つの塊にしたガスクラスターを用いることで、1原子あたりのエネルギーを数eVに押さえ、試料分子の破壊を抑えることができるため、大きな分子量のものでも測定することができる分析方法である。本法ではi) 酵素反応によりナイロン6の分子量は低下するのか?ii) ナイロン6の分子量分布はどのようになっているのか?iii) 低下していればどの程度低下しているのか?iv) 分解産物のピークを確認することはできるのか?の点に注目し、測定を行った。 また、種々ナイロン間の分解性の評価における基質の均一化方法として、基質をトリフルオロエタノール(TFE)で溶解し、シリコン基盤上に吸着させることによる基質の薄膜化を試みた。薄膜化したオリゴマー試料について、 NylC による分解がGC-SIMS によって確認できた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画した前処理条件の検討については、特に、微粉末化、オートクレーブ(120℃)について調べた、その結果、オートクレーブ処理で分解率が上昇すること、微粉末化は、凍結粉砕処理後、粒度により4分画に分けた試料について検討を行い、その影響を調べることができた。 定量的分析系の確立としては、当初、MALDI-TOF-MSによる分析を計画したが、強固な分子間力で結合したナイロンポリマーの会合体を調べる上では、本方法は有効ではないと判断し、概要で記載した新規の質量分析(GC-SIMS)による分析に変更した。その結果、高精度の分析系構築に成功した。
前年度の研究から、6-ナイロン微粉末化試料の酵素反応の検出に成功した(上述)。今後は、酵素機能の定量化、特に、ナイロン6-6、ナイロン12等、異なったポリマー分解の比較を可能にするため、ナイロンをトリフルオロエタノールに溶解後、薄膜を作成し、測定系の標準化を行う。また、通常の活性汚泥による生分解試験では28日間、土壌生分解試験では4ヶ月を要するが、ナイロン分解酵素とGC-SIMSを用いた評価手法では、1時間以内に分解の定量的評価が可能である。そこで、結晶化度制御、ポリアミドへの置換基導入、複数のポリアミドのコンポジット化等の手法により作製した多数の候補素材の中から、有望な生分解性ポリアミドの選別手法について検討する。
平成23年度の予算執行において残額が生じた理由は、下記の通り、本研究の実施には、多額の消耗品経費が必要であるにもかかわらず、平成24~25年度の配分額が、当初申請額の6割程度であったため、不足分を補充するため、本年度の予算の一部を次年度に繰り越して使用するように計画したためである。 本研究では、実験室内進化実験や部位特異的変異処理を継続的に実施する。さらに、各実験で得られた多くの酵素の構造解析を計画している。下記1~3のように、多額の消耗品購入を要するため、経費の大半は、消耗品費として使用する。1.タンパク質工学や分子進化工学的手法による機能改変実験では、改変に必要な多種類のオリゴヌクレオチド(DNA)を化学合成することが必要である。また、クローン取得後は、変異遺伝子の塩基配列を特定するため、多量の塩基配列の解析を要する。2.機能評価では、酵素反応に用いる基質を化学合成する必要がある。特別注文による化学合成は非常に高額である。3.反応産物の検出は、通常、高速液体クロマトグラフを用いる。酵素活性測定に用いた際、同カラム及びゲルの寿命は比較的短いことから、短期間で交換する必要性がある。
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