研究課題/領域番号 |
23656533
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
根来 誠司 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90156159)
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キーワード | ナイロン / 耐熱化酵素 / ガスクラスター2次イオン質量分析 |
研究概要 |
1.タンパク質の熱安定化は、生化学分野の重要課題であり、これまでに多くの研究報告があるが、通常、20℃程度の安定化に止まっている。我々は、親型NylCへの4アミノ酸置換で、熱安定性を36℃向上させることに成功した。 2.アジピン酸クロリド(有機溶媒相)とヘキサメチレンジアミン (水相)からなる66ナイロン合成反応系に、アジピン酸とは炭素鎖長の異なるモノマー(グルタル酸クロリド、コハク酸クロリド)、または、2級アミンのN,N’ジエチルヘキサメチレンジアミンの何れかを10%添加して共重合させた。得られたポリマーの微粉末化試料を用いて、上記耐熱化NylCによる分解性試験を行ったところ、分解率は、対照の66ナイロンの1.5~2倍上昇することが確認できた。 3.GPC分析は質量分析に比較して精度が低く、反応産物全体を可溶化させることが必要なため、分解反応の初期過程の検出が困難である。今回、研究対象とするナイロンポリマーの酵素分解では、反応は固相表面上で進行するが、これまで、この分解反応を検出する有効な手法がなかった。我々は、新規の表面分析手法(ガスクラスター二次イオン質量分析)により、酵素反応によるナイロンの固相表面の分子量変化を定量化することに成功した。さらに、反応温度と、生成物表面での分子量変化、平均ニック数との関係から、完全分解に必要な酵素側と基質側の条件を分子レベルで明らかにすることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.NylC(ナイロン加水分解酵素)が、6ナイロン、66ナイロン、修飾ナイロン(6ナイロンのアミド窒素の約30%がメトキシメチル基で修飾)へ作用することを見いだした。 2.親型NylC(熱変性のTm値52℃)はテトラマー構造を有するが、サブユニットA/B界面に位置する4変異導入により、Tm値が88℃まで上昇した変異酵素を構築できた。 3.GPC分析では、固体表面の分子量変化の検出が困難であったが、ガスクラスター2次イオン質量分析(GC-SIMS)の導入により、ナイロン分解の定量的分析が可能な実験系が確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
1.現時点では、どの程度の重合度でポリマー分子同士の相互作用が低下し、オリゴマーとして離脱するのか?、ポリマー基質への置換基効果が、分子内、分子間相互作用にどのような影響を与えるのか?も不明である。そこで、完全分解に必要な基質側(重合度、水素結合を攪乱するモノマーの挿入頻度)、反応条件(温度、酵素の速度論的特性)との関連性を検討し、生分解性ポリアミドの分子設計基準を確立する。 2.通常のナイロン分子はモノマーユニットが単一であるためにアミド結合の間隔が一定となり、分子間水素結合を形成しやすい状態にある。そこで、計算化学的手法として、6ナイロン(α結晶)と非晶領域の座標データを用いて、置換基の種類、存在比率により、会合体状態の構造がどのように影響を与えるのかを検討する。また、ポリマー重合度と安定性との関係、生分解性向上が期待できるモノマー基質・置換基について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の予算執行において残額が生じた理由は、本研究の実施には、多額の消耗品経費が必要であるにもかかわらず、平成25年度の配分額が、当初申請額の6割程度であったため、予算の一部を次年度に繰り越して使用できるように計画したためである。 本研究では、実験室内進化実験や部位特異的変異処理を継続的に実施する。さらに、各実験で得られた多くの酵素の構造解析を計画している。下記1~3のように、多額の消耗品購入を要するため、経費の大半は、消耗品費として使用する。 1.タンパク質工学や分子進化工学的手法による機能改変実験では、改変に必要な多種類のオリゴヌクレオチド(DNA)を化学合成することが必要である。また、種々の変異体について、多量の塩基配列の解析を要する。 2.機能評価では、酵素反応に用いる基質を化学合成する必要がある。 3.反応産物の検出は、通常、高速液体クロマトグラフを用いる。同カラムは高額であり、その寿命も比較的短いことから、消耗品経費として予算計上する必要性がある。
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