ヒトの腸管内では、多種多様な微生物が複雑な腸内フローラを形成しているが、これらの微生物は蠕動運動によって体外へ排出されないように、何らかの方法で腸管上皮細胞に接着していると考えられる。そこで本研究では、腸内フローラを制御するための基礎的な知見を得るため、乳酸菌表層に局在する接着タンパク質を同定し、ムチンを含む各種の炭水化物にどの程度の親和性をもつかを調べた。 乳酸菌Lactococcus lactis IL1403株の表層に局在するタンパク質を可溶化し、セルロースカラムでアフィニティ精製して同定したところ、DnaK、GroEL、GAPDH、malate oxidoreductase、30S ribosomal protein S1およびS2などが同定された。既報の知見と総合すると、DnaK、GroEL、GAPDHは腸管のセルロース、ムチン、マンナンの何れにも親和性を持つことになる。 組換えDnaKを大腸菌で調製して蛍光標識し、セルロース、ムチン、キチスIL1403細胞に対するpH7.0における吸着定数を測定したところ、それぞれ(2.7±0.9)×10^6、(2.5±0.5)×10^5、(3.7±2.2)×10^5、(8.7±3.2)×10^5M^<-1>となった。ムチンを固定したELISAプレートに乳酸菌を接着させ腸管モデル系におして、セルロース懸濁液を添加すると、固相に吸着した乳酸菌数は有意に減少した。pH7.0においてDnaKはムチンに対して、セルロースよりも1桁低い親和性しか有していないが、pH4.0においてはDnaKのセルロースおよびムチンに対する親和性はそれぞれ(5.7±0.2)×10^6および(4.4±1.0)×10^6M^<-1>となった。これは、乳酸菌が乳酸を生成して自身の周周のpHを下げれば、より腸管に定着しやすくなることを示している。
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