研究課題/領域番号 |
23656539
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10216806)
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研究分担者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助手 (20252794)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 宇宙環境 / 不活性分子 / 材料劣化 / 原子状酸素 |
研究概要 |
本研究は、宇宙環境工学の分野でこれまで全く考慮されてこなかった原子状酸素以外の大気成分と宇宙機表面との相互作用の可能性を、理論計算結果に基づいた実験により検証するものである。そのために、低軌道原子状酸素環境を模擬するためのレーザーデトネーション型原子ビーム発生装置を用いて8km/sの不活性分子ビームを形成し、不活性分子の高速衝突による材料劣化を定量的に評価する。平成23年度は本プロジェクトの初年度であり、軌道上の環境に近いビームプロファイルを実現するための装置の改修と整備を行った。窒素分子ビーム形成実験を行った結果、以下のような結果と問題点が明らかになった。(1)窒素100%ガスを用いてビーム形成を試みたところ、窒素分子と原子状窒素を含むビームが形成される。(2)飛行時間スペクトルにおける原子状窒素のピーク強度は窒素分子ピーク強度よりも大きく、窒素分子の大部分が原子状窒素に解離している。(3)窒素分子の解離はビームの並進エネルギーが大きくなると促進される傾向がある。これらの実験データから、超低軌道領域における窒素分子の高エネルギー衝突の効果を地上実験で再現するためには窒素ガスをターゲットガスに用いるのは適当ではないと結論された。一方、アルゴン100%ガスを用いてビーム形成を行ったところ、超熱アルゴンビームの形成が確認され、軌道上での窒素分子と材料の科学的反応性との差異を考慮できればアルゴンビームで軌道上での高エネルギー原子衝突環境の模擬が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験は概ね順調に進展している。平成23年度には本システムに使用していた大型ターボ分子ポンプが故障するという想定外の事態が生じたが、本プロジェクト予算で代替品を措置することができ、実験を継続する事ができた。それに伴い、当初計画から購入品が一部変更されている。本実験装置で使用していたパルスバルブを高速応答のピエゾバルブに交換し、さらにビーム軸中のスリット径を再検討することにより、原子ビームの正確な飛行時間スペクトルの取得を可能となった。一方、軌道上における窒素分子の高エネルギー衝突を地上で模擬する際に、レーザーデトネーション現象により窒素分子の解離が生じるという問題は、当初からある程度予想された現象であり、これを回避するために単原子分子であるアルゴンガスの適用を検討した。アルゴンビームを用いた実験結果は良好であり、次年度にアルゴンビーム実験を実施するに向けての当初目的をほぼ達成した。
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今後の研究の推進方策 |
超低軌道における窒素分子の高エネルギー衝突の効果を地上実験で再現するためには、軌道上における窒素分子と材料の科学的反応性との差異を考慮できればアルゴンビームで軌道環境の模擬が可能であることが平成23年度の研究結果から明らかになった。そこで、平成24年度にはアルゴンビームと高速チョッパーの組み合わせにより軌道上の窒素分子衝突エネルギーを模擬し、材料劣化量の測定を行う。具体的には水晶振動子上に成膜したポリイミドやフッ素系高分子薄膜にアルゴンビームを照射し、共振周波数の変化から、材料劣化現象の発現の有無、ならびに理論計算で予測されているエネルギー依存性等を測定する。これにより不活性原子の高エネルギー衝突が材料劣化に及ぼす影響を評価する。また、表面分析により窒素とアルゴンの反応性の差異が材料劣化現象に与える効果も併せて評価する。これらの実験により、原子状酸素の化学的反応性と物理的衝突エネルギーの効果を切り分けた理解が可能となる。平成24年度は研究最終年度であることから、本研究で得られた結果を総括し、低軌道における不活性分子の高エネルギー衝突が宇宙用材料へ与える効果について、ミッションリスクアセスメントを含む評価を行うとともに、SLATS等の超低軌道ミッションプロジェクトへの助言を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年3月にオランダで実施予定であった研究協力者との打ち合わせが先方の都合により5月に延期されたことから、平成23年度の外国旅費の一部が平成24年度に繰り越された。平成24年度には大きな装置系の変更は予定されておらず、研究費は主として実験用の消耗品と成果発表用の旅費である。本研究での結果は平成24年9月に開催される本分野の国際会議ISMSE-12, IAC-63等で発表予定である。
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