研究課題/領域番号 |
23656542
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
砂田 茂 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70343415)
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研究分担者 |
橋本 敦 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発本部, 研究員 (30462899)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロエアービークル / 風擾乱 / 低アスペクト比翼 |
研究概要 |
1辺の長さがc=100mmの正方形翼3枚がスパン方向に並んだスプリット翼の空力性能を、風洞実験によって求めた。正方形翼間のスペース幅hのcでの無次元値、上反角(=0度、20度)、レイノルズ数(=50000、100000)、迎角をパラメータとした。上反角、レイノルズ数に依らず、h/cが0と0.2の場合、0.9と無限大(単独の正方形翼)の場合に以下の様な大きな差が見られた。(1) h/c=0~0.2:h/cが大きくなると、失速角が大きくなり、最大揚力係数が増大する。(2) h/c=0.9~無限大:h/cが無限大になると、揚力傾斜が小さくなり、失速角が大きくなり、最大揚力係数が増大する。この風洞試験の結果から、スプリット翼が予想していた性能を有することが確認された。また、正方形翼間距離がコードの20%あれば、スペースの効果が十分現れることが明らかになった。市販のCFDソフトを使用して、レイノルズ数が100000での翼性能を定常解析で評価し、信頼性の高い実験結果と比較した。解析では本レイノルズ数領域で特有の剥離泡を捉えられず、計算結果と実験結果に差が見られた。スプリット翼として、スライドタイプ(正方形翼間距離を変更する際、外側の翼がスパン方向に平行移動する。この際、上方から見た翼の占有面積は不変。)、スリットタイプ(正方形翼間距離を変更する際、正方形の継ぎ目にある箇所がコード軸周りに90度回転し、上方から翼を見た際、正方形翼間にスペースができる。この際、上方から見た翼の占有面積は減少)の2つのタイプを提案した。2タイプのスプリット翼を製作し、飛行試験を行い、正方形翼間距離を変更する際に飛行が大きく乱れることもないことを確認した。(注)研究題目名にもある様に、研究開始時に研究対象の翼をスペース翼と名付けた。最近、他の研究者からの指摘でスプリット翼と呼んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
風洞実験によって、スプリット翼が予想していた性能を有することが確認できたこと、スぺースの幅はコード長の20%程度で十分であることを示すことができたことは計画通りである。20%よりも小さな幅のスペースでの風洞実験を行い、さらに狭いスペースでもスプリット翼としての機能が得られるのであれば、スプリット翼の実現性が高まる。今後、さらに狭いスペースでの風洞実験を進めたい。フェザーの集まりである鳥の翼にも多くのスペースがあるので、鳥の翼の工学的検討の意味も持っている。さらに、2タイプのスプリット翼を製作し、飛行試験を行えたことは、予定以上の進捗である。その際に、これまでに開発した制御基板に搭載されたセンサでは、高精度の角速度データを取得できないことが明らかになった。飛行中の角速度データの高精度での取得も今後の課題である。一方、CFDによる翼性能評価(定常解析)は、風洞試験結果を補えるものでないことが分かった。スペースの幅を変更した場合の性能評価等がCFDで可能であれば、風洞実験量減少し、研究費、研究時間の節約が期待でき、さらに詳細な流れ場情報も得られ、研究が加速すると思われた。しかし、非定常解析CFDを進めるための労力を考慮すると、実験的検討に重きを置いた方が効率的であると判断している。当初の予定よりもCFDでの検討の比重を下げる予定である。以上の様に、平成23年度の研究は十分に進捗したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は以下の2点に焦点をあてた研究を遂行する。(1)平成23年度はスプリット翼の定常特性に注目したが、非定常特性に注目した研究を行う。これまでの低アスペクト比翼の非定常翼特性の研究成果をサーベイし、非定常な渦中でのスプリット翼の性能を風洞実験で調べる。また、プロペラ後流の非定常な渦中の性能をCFD(計算空気力学)によって調べる。(2)スプリット翼では、擾乱が大きい時には低アスペクト比翼の性能を用いることで対応する。低アスペクト比翼では、翼端渦と翼との干渉が強く、翼端渦が飛行機を風擾乱に対してロバストにしていると言える。また、小型でありながらも風に強い飛翔体に昆虫がいる。羽ばたき飛行では翼端渦に加えて常時、翼スパンに渦度ベクトルが平行な渦(吐き出し渦)が放出される。昆虫の場合は、さらに翼周りに前縁剥離渦が存在することが知られている。この様に、風擾乱に対してロバストであることと、空間に渦が存在することには深い関連があることが想像できる。強い渦が風擾乱の渦度を取り込み、風擾乱の飛行への影響を下げている可能性がある。そこで、トンボの翼のギザギザ(コーラゲーション)を翼や機体形状に取り込み、それらからの渦放出を高め、風擾乱に対して運動体をタフにすることを目的とした実験を開始する。具体的には、走行する車体が横風に遭遇した際、横に流される移動量に対する、機体表面上のコーラゲーションの効果を測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の2つの風洞実験に研究費を使用する。2つの実験を行うにあたり、風洞は大阪大学工学部の風洞を借用するため、風洞借用代が必要である。また、翼製作のための消耗品代が必要である。さらに、上記(1)の実験のためには、渦を発生させるための装置を自作するための消耗品代、サーボモータが必要である。上記(2)の実験のためには、車体を製作する消耗品代、横風を発生器を製作するためのハニカム(ファンは既存のものを使用予定)が必要である。また、講演会出席のためや、阪大風洞に行くための旅費が必要である。
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