研究課題/領域番号 |
23656546
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多部田 茂 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (40262406)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 海底熱水鉱床 / 社会受容性 / 事業性 / 環境リスク |
研究概要 |
海底熱水鉱床開発推進のボトルネックのひとつであると考えられる環境影響に関する社会受容性に着目し、環境と経済を考慮した持続可能性を定量的な評価を試みた。開発に伴う経済的ベネフィットと生態系への影響のトレードオフを考慮して社会的な合意形成をはかり早期の事業化を実現するためには、限られた情報のもとでのベネフィットとリスクの評価が必要であるため、専門家の判断などを合理的な方法で意志決定に反映させていく手法が必要である。そこで、熱水鉱床開発の社会受容性に関して、アンケート調査の分析と包括的指標による評価を行った。アンケート調査の結果、非専門家は専門家より開発による波及的なリスクをより大きく感じていることが明らかになり、専門家が非専門家に対して、適切に説明などをすることで、社会受容性の向上に寄与できる可能性があることが示唆された。 また、専門家のリスク認知を利用して熱水鉱床開発による生態リスクERを定量化し、環境影響と経済性を統合的に評価する指標であるTriple-Iを計算した。 ERは、一般にエンドポイントのハザードの大きさにその生起確率をかけたもので表され、エンドポイントとしてしばしば生物種の絶滅が想定される。そこで海底熱水鉱床開発のERのエンドポイントとして、いくつかの空間スケールにおける海洋生物の種の絶滅を考え、専門家アンケートの結果をクロスインパクト法で分析し生物多様性の減少の生起確率を求めた。そして、ハザードである種の絶滅とその生起確率をかけ合わせることでERを算出した。ERとしてローカル影響のみを考慮する場合のTriple-I評価は、十分な持続可能性を示したが、影響範囲の広さや広範囲影響の深刻さにより、評価結果は変わる。また、Triple-Iが負(持続可能)となる条件より、許容しうる環境影響の大きさを求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンケート調査の分析と包括的指標による評価により、熱水鉱床開発の社会受容性に関する検討を予定通り実施した。
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今後の研究の推進方策 |
海底熱水鉱床開発の産業化に向けた主な課題として,開発に伴う環境や生態系への影響への懸念と、投資の際の事業性が挙げられる。特に、海底資源開発では金属品位、価格、環境リスクなどの不確実要因が多いため、事業性評価に関する定量的な議論が進まず、事業者側にとって参入し難い状況になっている。前年度の検討で、環境影響に関する社会受容性に着目し,環境と経済を考慮した持続可能性の定量的な評価を行うために、専門家へのアンケートを実施して改訂熱水鉱床開発の環境リスクの定量化を行った。その結果も利用して、環境リスクを含めた不確実性を考慮した海底熱水鉱床開発の事業性評価を実施する。具体的な海域の開発をケーススタディとして、シナリオや確率変数の設定を行ない、その設定条件に基づいてNPV(事業の現在価値)や収益の期待値と収益率のボラティリティ(標準偏差)をモンテカルロシミュレーションにより統計的に推定する。また各種パラメーターが事業価値に与える影響を調べるために、感度分析を行なう。さらに事業の不確実性を考慮したリアルオプション分析を行い、その有効性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
データ解析やシミュレーションのために計算機を導入する。また、学会等における情報収集、さらに成果発表のために国内および外国旅費を計上する。データの整理や解析に関して大学院生等に作業補助を委託するために謝金を計上する。その他としては、情報収集のための学会参加費、成果の論文別刷代を計上する。
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