研究課題/領域番号 |
23656578
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
高村 秀一 愛知工業大学, 工学部, 教授 (40023254)
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キーワード | 核融合 / プラズマ-壁相互作用 / タングステン / 過渡的熱負荷 / ヘリウム損傷 / 繊維状ナノ構造 / 電子放出 |
研究概要 |
(1) ELMに特徴的な高速電子を含むプラズマのシースを介した熱伝達係数の評価:ヘリウム損傷を受けて繊維状ナノ構造を持つタングステンと無損傷のタングステンの両者に対して高温電子を含むヘリウム・プラズマ中で熱伝達係数のシース電圧依存性が評価された。シース電圧の広い範囲にわたって損傷タングステンは無損傷のこれに比して2倍程度大きなエネルギー伝達係数を持つことがわかった。その原因の一つはイオンエネルギー反射係数のナノ構造形成による減少と、電子放出に伴う冷却効果が関与している可能性が高いことを明らかにした。 (2) 種々の高融点金属からの2次電子放出:バルクの電子温度5eV、高温電子が10%含まれその実効温度が30eV程度のヘリウム・プラズマではMo > Ti > Ta > Wの順で2次電子放出によるシース電圧の大きさの低下が見られることがわかった。しかしWに代表されるように材料表面のヘリウム損傷効果もあるので注意が必要である。 (3) 熱パルスに対するタングステン・ターゲットの応答 3-1:バイアス変化(100ms程度)による電子熱流束の増大に対しては、2000Kを超える高温が得られたが、繊維状ナノ構造は昇温を抑える効果を持つ。3-2:電子ビーム照射によるタングステン・ターゲットの浮遊電位の変化を検出。最深電位は-65Vであった。3-3:パルス幅10ms、瞬時パワー70KWのパルス電源を製作し、当初の性能を満たすことを確認し、次年度の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)プラズマ・シースを介したエネルギー伝達係数のシース電圧依存性に関しては、高温電子を含む二電子温度プラズマに対して、理論的・実験的に明らかにした。表面構造がイオン・エネルギー反射係数に与える効果や電子放出に伴う冷却など新しい事柄が明らかにされた。 (2)4種類(タングステン、モリブデン、タンタル、チタン)の高融点金属に対する2次電子放出量の定量的比較・順位付けを行った。 (3)パルス熱負荷の準備研究を行うと共に、パルスプラズマ電源の設計製作を行った。
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今後の研究の推進方策 |
無損傷WならびにHe損傷Wのプラズマ熱入力に対する種々の応答特性をこれまで明らかにしてきた。ナノ構造形成とそれに伴う全放射率の上昇、2次電子放出の生成と抑制、スパッタリングの抑制、イオンのエネルギー反射係数の変化、ナノ構造の温度履歴効果ならびに修復、単極アークの誘発など。これらの素過程を基盤にしてパルス状超高熱負荷に対するタングステン材料の溶融に至るまでの非線形過程を明らかにする。このために1kJ(100KW、10ms)定格のパルスプラズマ発生装置を準備した。高速応答の放射温度計を機軸にこの課題について総合的な研究を展開する。具体的には、繊維状ナノ構造層であるサブサーフェイスがどのような過渡熱負荷において溶融に至るかであり、これを熱負荷パワーとパルス幅の2次元パラメータ空間において自己防御機能を明示することである。十分なパワーを持つ電源が準備できたので、破損し易いスパイラル型のセラミック陰極LaB6の強度に注意を払いつつ出力とパルス幅を上げてゆく。 サブサーフェイスの熱伝導、黒色化したナノ構造による放射冷却等、これまで明らかにした物理過程がどのような役割を果たすかを明らかにし、集大成として論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の予算がやや不足気味であったので次年度向けに若干の研究費を残し、次の経費に充てる。 ・LaB6スパイラル陰極:この陰極からの熱電子によりパルス電子ビームとパルスプラズマ発生を行う。このセラミック陰極は衝撃に弱く破損し易い。パルスプラズマ電源の出力とパルス幅を逐次段階的に上げてゆくが、途中で破損する場合も想定し、これを補うために必須である。 ・材料表面観察費:表面のFE-SEM観察は本学総研の設備を駆使して行えるが、断面観察が溶融との絡みで必要となる。 東レはCP法によって高度な断面観察を可能とする技術を持つ。 ・旅費・論文掲載料:本年もいくつかの成果が出ると期待されるので、それを内外に示すために必要。論文は海外の雑誌(例えばNuclear Fusion)を考えている。
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