研究課題/領域番号 |
23656580
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山内 泰 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, グループリーダー (80354356)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 水素 / ヘリウム / 脱離計測 / 準安定原子 / パルス |
研究概要 |
低速準安定He原子線に最外層の吸着子を脱離させる能力があることが報告され、その高いポテンシャルが示されたが、同時に検出信号強度や脱離種情報が充分でないことも明らかとなっており、信号の効率的な検出ならびに質量分解能の向上が求められている。そこで、本研究では、脱離イオンの検出効率が高いパスル法で必要とされる低速準安定He原子線パルス化の要素技術である機械式チョッパーに関する検討を行った。低速準安定He原子線は、ノスル・スキマー放電法によってビーム形成と同時に励起することで生成できる。さらに、技術的には困難を伴うが、ノズル・スキマー放電をパルス化すれば高密度の準安定He原子線を得ることができる。ただし、ノズルにカソードを内蔵した構造で放電を維持するにはガス圧を高くできないため、ビームは断熱膨張による超音速ビームよりも拡散ビームに近い性質を持ち、なおかつ放電プラズマ中の電子との衝突により運動量をランダムに受けるため速度分布がかなり広くv/Δvが1に近い。そのため、ビームをノズル・スキマー放電で一旦パルス形成しても、試料までの飛行時間tに応じて、時間軸でのパルス巾がtに広がることが課題である。試料上でのパスル巾を狭くするには、飛行時間(飛行距離)を短くするかあるいは速度分布を鋭く(v/Δvの値を大きく)する必要がある。飛行距離は、チョッパーを試料直近に配置することで短くすることが可能である。従来から原子・分子線実験で用いられている回転チョッパーに代えて音叉チョッパーを用いれば小型化が実現できる。レーザー光を用いた模擬実験を行ったところ、2個の音叉チョッパーを位相同期回路を介して異なる位相で動作させることにより数10μ秒の応答時間が得られ、音叉チョッパーによる低速準安定He原子線パルス化の実効性が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素インベントリーや化学スパッタリングなどプラズマ対向材料の優れたプラズマ耐性を確保するには最表面で生ずる化学反応の解明が重要であり、反応生成物あるいは吸着種の高感度同定が不可欠である。そこで、吸着種の脱離計測を極めて高感度で行うための、低速準安定原子線を用いた技術を開発する。低速準安定原子線は、表面から真空側で反射されてしまうことから、最外層の原子を選択的に刺激できる理想的なプローブである。分子原子に対して電離作用を持つ低速準安定原子線に最外層の吸着子を脱離させる能力があることは、既に検証されているが、検出信号強度が充分でないことも同時に明らかとなっており、実用的計測法として確立するには、信号強度の増大あるいは信号の効率的な利用を図る技術開発が必須である。本研究は、低速準安定原子線を用いた脱離反応計測技術を確立するため、準安定原子線をパルス化する技術開発を行い、脱離信号強度および利用効率両面での飛躍的な向上を図るとともに、脱離現象に深くかかわる材料表面最外層の電子状態を計測する技術開発等、反応計測技術の新たな展開を目指している。今年度は、放電試験用真空槽にカソードを内蔵する絶縁体ノズルと陽極を兼ねるスキマーとで構成される原子線源を構築し、ヘリウムガスの導入と大容量真空排気ポンプによる排気を行いながら、カソードとスキマー間の放電をパルス電圧の印加によってパルス化し、得られる準安定原子線の特性を解析し、パルス放電の安定化を図り、不斉磁界として6極磁子を用いたコリメーション効果を確認するなど初期の目標を達成し、さらに概要で詳述した、機械式チョッパーの有効性を実証した。
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今後の研究の推進方策 |
パルス整形技術に関しては、今年度に確立したノズル・スキマー放電式パルス原子線源のパルス準安定励起原子線のパルス波形を整形して、パルス巾を狭め、飛行時間計測での原理的な高分解能化を図る。軸対象不斉磁場を用いた原子線の速度弁別によって速度分布を狭める。併せて、今年度有効性を実証した機械式チョッパーによってパルス巾のさらなる狭小化を目指す。脱離粒子検出解析技術に関しては、プロトタイプの光学系を構成して、グラファイト系基板あるいは酸化物系基板などの解離吸着水素あるいは水酸基などの検出を試みながら、理想的な光学系の検討を進め、システムを完成させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、ノズル・スキマー放電式原子線源の放電をパルス化することによってパルス準安定励起原子線を生成するための技術開発を進めたが、当初予定した「ビーム光学系」の導入前にパルス放電をかなりのレベルで安定化する方法を確立できたため、「ビーム光学系」の導入を繰り延べた。次年度では、今年度有効性を実証した機械式チョッパーを組み込んでさらに高度なビーム光学システムを構築するためのコンポーネントの調達に繰越予算を充当する計画である。
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