研究課題/領域番号 |
23656582
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
越水 正典 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40374962)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超伝導 / 放射線照射効果 / 光ドープ / 永続的光伝導 |
研究概要 |
より良好な超伝導特性を有する材料の開発は、送電などでの省エネルギー化を図る上で不可欠であり、膨大な数の超伝導材料がこれまでに開発されてきた。超伝導材料開発の上での一つの有力な手段は、異なる価数のイオンの導入や、欠陥形成などによる、化学的手法を通じた荷電キャリアのドープである。しかしながら、化学ドープによる手法には、結晶科学的制約が存在するため、ドープするキャリアのタイプや濃度を自由に変化させることは困難である。この制約を破る手法として、電極からの電場印加や光励起によるキャリアドープが近年注目されている。これらの手法により、外部からのキャリアドープが可能となり、より幅広い電子状態を対象とした超伝導状態の探索が可能となった。本研究は、これら2つの外部ドープ手法よりも幅広い対象に適用可能な、放射線によるキャリアドープを通じた超伝導特性の向上を実現することを目的として研究を進めた。具体的には、YBCO系やGdBCO系の銅酸化物超伝導体に対し、X線照射下で、電気抵抗の温度依存性を観測した。その結果、X線を照射しない場合と比較し、照射した場合では、最大で15 K程度の超伝導転移温度の上昇を確認した。放射線を利用した外部からのドープによる超伝導転移温度の上昇の観測は、バルクの超伝導体に対して世界で初めて観測された。この成果は、放射線誘起超伝導を有用な技術として確立するための重要な第一歩であり、今後の基礎過程解明を通じ、技術基盤を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究により、放射線誘起超伝導を、銅酸化物超伝導体において実証することに成功した。特に、試料によっては、超伝導転移温度が15Kほど上昇した場合もあったことから、X線などの放射線照射によるキャリアドープが、超伝導特性の向上に非常に有用であることが示された。今年度の計画では、銅酸化物系での放射線誘起超伝導の実証を目的としていたため、所定の成果が達成されたと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度には、酸化物超伝導体とn型あるいはp型半導体材料との多層膜構造PLD膜を対象とする。これは、界面を介した電荷移動によるキャリアドープを実現するためである。また、酸化物系以外の超伝導物質も対象とする。MgB2や、最近発見された鉄系超伝導化合物、あるいは一部の金属間化合物などを対象とする。これらの化合物では、酸化物系ほど連続的な組成変化を行うことは困難であるため、キャリア濃度の制御を課題とはせず、多様な超伝導特性をもつ物質での放射線照射効果の探究を主要課題とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、組成の異なる超伝導体と、類似組成物質とを対象とした実験を行う。10ヶ月間ほどの研究期間内で、月に8種類程度の試料を対象とした実験を行うことを予定している。また、超伝導体試料作製においては、高純度試薬を原料として用いる必要があり、1種類の試料(数グラム程度)の合成に、平均して10千円程度の試薬費がかかると想定している。PLD膜を対象とする場合においても、前駆体となる焼結体が必要であるため、同様の費用がかかると想定する。また、本研究では、主にX線照射下での超伝導特性変化を解析する。X線照射は、研究室にて所有するX線発生装置を用いて行う。年間で3000時間以上の照射を予定している。これは、平均的なX線管の寿命とほぼ同等である。そのため、消耗品として、各年度に1本ずつ、X線管の費用を予定している。さらに、本研究では、試料作製と構造・組成解析を担当する大学院生1名と、X線照射前あるいは照射下での伝導特性評価を行う大学院生1名が、研究協力者として本研究に参画する。2名とも、月に20時間の研究補助を行うものとし、10ヶ月間の研究補助期間とする。今年度には、1年度目の研究成果の発表を行う予定である。応用物理学会と日本物理学会とで発表を行う。そのための旅費も使用する予定である。
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