研究課題/領域番号 |
23656589
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柴田 誠一 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (80110708)
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研究分担者 |
関本 俊 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (10420407)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 放射性エアロゾル / 放射線工学 / ビーム科学 |
研究概要 |
運転中の加速器室内では、二次的に発生した中性子などの放射線により、放射性エアロゾルが生成する。この放射性エアロゾルの生成機構の解明、その粒径分布の情報は内部被ばく線量評価の観点から重要であるが、これまでの放射性エアロゾルの種類、生成機構に関する研究やエアロゾル発生時の粒径分布、エアロゾルとガスの比率に関する研究は、ビームエネルギーが数10 MeV~100 MeVまでの加速器を用いてなされているのみで、測定できる放射性核種が非常に少なく、十分な議論がなされているとはいえない状況にある。このような議論を可能にするためには、さらに高エネルギーの加速器施設での実験が望まれていた。 我々は、米国フェルミ国立加速器研究所(FNL)の120 GeVの超高エネルギー陽子を、インコネルターゲットに入射し、反陽子を生成している反陽子ターゲットステーション(AP0)において、生成した放射性エアロゾルを分級して捕集し、そこに含まれる核種及び粒径の分析を行った。その結果、Be-7からAu-198に至る14放射性核種を十分な統計精度で測定することができ、それらの核種ごとに粒径分布、幾何中央径を求めることができた。そして、それらの中央径が既報の低エネルギー加速器施設で得られた結果よりほぼ1桁大きいこと、これらの核種の半減期と粒径に比例関係があることがわかった。この結果は、FNLで行った2回の実験により再現性についても確認されている。現在、これら放射性エアロゾルの生成機構について考察するためにモデルを立て、その妥当性についてシミュレーションプログラムを作成し検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェルミ国立加速器研究所(FNL)の反陽子ターゲットステーション(AP0)で生成した放射性エアロゾルの分析を行い、得られた放射性核種の半減期とその粒径との関係を明らかにし、それをもとに放射性エアロゾルの生成機構、成長速度を見積もることを目的として実験を行った。 具体的には、FNLのAP0のターゲット室内及びエアギャップ(ターゲット室の上側の鉄遮蔽外側)より、インパクタ―法とGraded Screen Array(GSA)法により、それぞれ粒径が0.05μmから10μmの放射性エアロゾルと、0.05μm以下の粒径をもつものとを分級して捕集し、放射性エアロゾルを捕集したアルミホイルもしくはメッシュ及び各測定法のバックアップフィルターについて、ガンマ線測定を行い、ターゲット室とエアギャップ内の放射性エアロゾルについて、核種の同定及び粒径分布の測定を行った。その結果、Be-7からAu-198に至る14放射性核種を十分な統計精度で測定することができ、それらの核種ごとに粒径分布、幾何中央径を求めることができた。得られた結果は、独立した2回の実験で実験誤差の範囲内で一致し、信頼性の高い結果が得られた。実験は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
この実験では、多くの放射性核種を含む放射性エアロゾルの粒径分布が再現性よく測定された。この結果は、短半減期核種の放射性エアロゾル粒子の粒径は小さく、長半減期核種では大きくなると要約できる。この関係はこの実験で初めて明確に示された成果である。 次年度も同様の実験を実施し、データを蓄積するとともに、結果の信頼性をさらに検証する。また、現在、これら放射性エアロゾルの生成機構について考察するために次の3つのモデルを立て、それらの妥当性についてシミュレーションプログラムを作成し検討を進めている。 (1)エアロゾル粒子上への放射性核種の拡散付着、(2)放射性核種を含む化学種の粒子への凝縮、(3)放射性核種をイオン核とする粒子生成。 これまでに得られた予備的な結果からは、(3)のモデルが最もよく実験結果を再現できているが、これについてもさらに検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続きフェルミ国立加速器研究所での実験を行う。この実験に必要な消耗品としてインパクタ―やGSAによるエアロゾル採取のためのチューブ、アルミニウムフィルター、金属メッシュ等の購入を予定している。また、実験結果のモデル計算との比較から、所期の目的の、放射性エアロゾルの挙動追跡とその生成機構の解明を目指す。 次年度はこれまでに得られた成果をまとめて、国内の学会での研究発表だけでなく、核・放射化学関連及び放射線防護関連の国際会議でも発表する予定である。さらに論文としてまとめ公表する予定である。
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