研究課題/領域番号 |
23656592
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
岩瀬 彰宏 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60343919)
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研究分担者 |
松井 利之 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 教授 (20219372)
佐藤 隆博 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 放射線高度利用施設部, 研究副主幹 (10370404)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イオンビーム / 磁性パターニング / 鉄ロジウム合金 / 磁気力顕微鏡 / 光電子顕微鏡 |
研究概要 |
高真空イオンスパッタリング装置を用いて、膜厚約100ナノmのFeRh薄膜をMgO基板上に作成した。作成膜をX線回折とSQUIDで評価した結果、B2構造のc軸配向膜でほぼ反強磁性であった。この膜を、原子力機構(高崎)のマイクロイオンビームシステムを用いて10MeVのヨウ素イオン照射を行った。マイクロビームの大きさは10マイクロm角から2マイクロm角であった。マイクロビーム照射を行った試料表面の2次元磁性パターンを磁気力顕微鏡(MFM)および大型放射光施設SPring8における光電子顕微鏡(PEEM)を用いて評価した。その結果、イオン照射した微少領域のみが強磁性に変化しており、その領域の磁化方向は、ほぼ膜面内に存在することが分かった。さらに表面磁性を放射光磁気円2色性(XMCD)で評価した結果、鉄由来の3dバンドが照射誘起強磁性に大きく寄与していることが分かった。重要なことは、照射した領域と未照射領域の境界がきわめてクリアに形成されている点であり、パターンドメディア作成に向けての1つの重要な点がクリアされた。さらに微細な2次元磁気パターンを作成すべく、30keV集束ガリウムイオン照射を試みた。その結果、1ミクロンmを切る微少磁気パターンの作成に成功した。次に、照射後の熱処理により、イオンビームで誘起された磁性状態がどのように変化するかを調べる実験を実施した。300-400度C程度の熱処理により、照射によって生じた強磁性状態は反強磁性へと回復し、照射によって結晶性が乱れ、常磁性になってしまった状態が、旧磁性状態を経て反強磁性に戻るといった現象も見出された。これらの実験結果は、高速重イオンの熱スパイクによりナノスケールの磁性パターンを作成する上での重要な基礎的知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、磁気パターンの大きさを数ミクロンm程度を目標に研究を進めてきたが、集束イオンビーム照射などを用いて、1マイクロmを切るような微少磁気パターンの作成に成功したため、当初の計画以上に進展していると言える。また、マイクロイオンビームによる磁気状態が、SPring8での光電子顕微鏡(PEEM)によって非常にクリアに観測できたことも、想定以上の結果であると言える。さらに、照射して常磁性に変化した試料の磁性が、熱処理によって系統的に強磁性、反強磁性と変化する様子をとらえられたことも、今後の研究の展開を考えると、大変意義深いことである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、高速イオンによる高密度電子励起効果(スパイク効果)をマクロに見るため、低エネルギーイオン照射してFeRh試料全体を常磁性状態にしたあと、高速重イオンを照射し、SQUIDによる磁化測定から、高速重イオンによるスパイク効果が、熱処理と同じような磁性変化、すなわち、常磁性を強磁性に変化させることができるかどうかを、SQUID磁束計を用いて評価する。スパイク効果によるアニール効果が最も効果的に発現するために、イオン種、エネルギーといった照射パラメータの最適化を図る。最適な照射パラメータが決定できたら、その条件を用いて、重イオンのスパイク効果を用いた1次元磁性トラック形成にチャレンジする。1次元トラックの形成の確認は、外部磁場方向を変化してSQUID信号をとったり、MFM観察により行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、高品質薄膜を用いて、低エネルギーイオン照射と、高エネルギー重イオンによるスパイク効果を組み合わせた研究を中心に研究する。このため、薄膜作製装置の高真空維持のための消耗品、薄膜作製原料購入、イオン照射装置の維持のために研究費をあてる。「次年度使用額」が33万円強あるが、これは、薄膜作製のための原材料などの備蓄を23年度に有効に使用できたため、そして、大型外部施設(放射光)のビームタイムが当初計画より少なめだったことにより、その実験のための消耗品代が予定より少なかったことなどによる。24年度は、加速器実験や放射光実験のビームタイムもすでに十分確保しているので、そのための旅費、消耗品、滞在費なども、「次年度使用額」を含めた研究費のうちの大きな部分を占める。さらに、得られた成果を国内外にアピールするために、論文執筆はもとより、国内、海外(米国など)での学会に積極的に参加する予定であり、そのための論文投稿・別刷り代、学会参加費、旅費、滞在費などの支出も計画している。
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