研究課題/領域番号 |
23656592
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
岩瀬 彰宏 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60343919)
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研究分担者 |
松井 利之 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 教授 (20219372)
佐藤 隆博 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 放射線高度利用施設部, 研究副主幹 (10370404)
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キーワード | イオンビーム / 磁性パターニング / 鉄ロジウム合金 / 磁気力顕微鏡 / 光電子顕微鏡 |
研究概要 |
イオンスパッタ装置を用いて作成したFeRh薄膜を、原子力機構高崎の軽イオン(H,He)マイクロビームを用いて、いろいろなマイクロメートルスケールのパターンで照射を行った。昨年行った重イオンマイクロビームに比べ、ビームが安定しており、より良好な照射が可能であった。照射した試料は、大型放射光施設SPring8においてXMCD-PEEM観察を行った。その結果、反強磁性領域の一部に、強磁性を示すマイクロメートルスケールのドットパターン、幅1ミクロンm程度のラインパターン、”FeRh”といった曲線部を含んだ文字パターンを描くことに成功した。さらに、このマイクロメートルスケールの強磁性パターンを「その場」熱処理を行うことにより、もとの反強磁性に回復する現象もとらえた。熱処理による磁性の回復は、強磁性領域の大きさに依存することも見出された。イオン照射による磁性改質に加え、24年度は、イオン照射によるFeRhの結晶構造変化を調べる実験も行った。この実験には、結晶構造がより明確に定まっているバルク結晶を用いた。バルク結晶を高エネルギーイオン照射することにより、本来は融点直下でしか現れないFCC構造(A1相)が出現すること、そして、相図に存在しないL10相が常温常圧で発現することも見出された。前者は、イオン照射によるサーマルスパイクがもたらした現象、後者は、イオン照射による高応力がもたらした現象であると考えられる。これらイオン照射による結晶構造変態は、磁性変態のメカニズムを考えるうえで重要な知見である。イオンビームでFCC構造を発現させ非磁性に変化した試料をGeV領域の高速イオンで照射する実験も試みたが、今のところ、GeVイオンによる高励起反応場が磁性を回復するまでには至っていない。実験条件のさらなる最適化が必要であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FeRh中にマイクロメートルスケールの磁気パターンを形成することを目標に研究を進めてきた。前年度の集束ビーム照射に加えて、高エネルギーマイクロビームでの微細磁気パターニングが自在にできるようになったことは大きな進展である。また、磁性の変化と大きく関係していると思われる結晶構造変化とイオン照射との関連が明らかになりつつあるのも大きな進展である。研究成果に関する論文や国際学会発表も数多く行われており、本研究はおおむね順調に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、低いエネルギーのイオン照射でFeRhを非磁性化し、それをGeVイオンなどの高速イオンがもたらす高密度電子励起によるサーマルスパイク現象を用いて強磁性化、あるいは反強磁性化する実験を、実験条件を最適化して実施する。その後、高速イオンによる1次元ナノスケールトラック領域が強磁性あるいは反強磁性になっているかどうかを、結晶構造変化も含め、磁気力顕微鏡、放射光PEEM、EXAFS、XMCD,SQUIDによる磁化の磁場方向依存性などの手段を用いて確認する。25年度は最終年度であるので、得られた成果を、今まで以上に積極的に国内外の学会でアピールし、順次、論文にもまとめていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
高品質FeRh薄膜作成や高純度FeRhバルク試料調整のための消耗品、磁性評価に用いるSQUID磁束計、磁気力顕微鏡に関する消耗品、学外大型施設(放射光、加速器など)の使用料や旅費・滞在費への支出を計画している。また、国内、国際学会おける成果発表に対する参加費、旅費・滞在費、論文投稿に関する別刷り代、投稿料などの支出も計画している。
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