京都大学原子炉実験所Lバンドライナックの放射光発生部に、小型の永久磁石型偏向磁石2台を設置し、その偏向磁石を通過する電子ビームによってコヒーレント放射光を発生させた。偏向磁石の間隔は、逆コンプトン散乱衝突点が磁場の影響を受けないように、Lバンドの電子ビームミクロパルスの間隔を考慮して約0.22mに設定した。光学素子を利用することでコヒーレント放射光を平行光束化して実験室まで輸送し、そのスペクトルを施設に設置されているMartin-Puplett型干渉計にて分光測定した。その結果、低エネルギー運転時には波長3mm付近で最大出力となることがわかった。逆コンプトン散乱によって発生する光子のスペクトルが可視域で最大強度を有するように、電子ビームエネルギーは19MeVに設定した。 コヒーレント放射光を平行光束化した光路に中心20mmのみ蒸着していない反射鏡を挿入し、電子ビームとの逆コンプトン散乱を行い、非蒸着部分を通過した散乱光子のスペクトルを分光器と光電子増倍管を使用して計測した。そのスペクトル形状は、コヒーレント放射光スペクトルから予想される形状とほぼ一致した。また、逆コンプトン散乱光子数に対するバックグラウンド光子数の比率は、テラヘルツ光源としてコヒーレント遷移放射を使用した時よりも1/3以下に減少させることができた。反射鏡の前に有機薄膜を挿入し、得られた逆コンプトン散乱光子スペクトルを試料無しの場合と比較することで、テラヘルツ帯における有機薄膜の透過率測定を実施した。その測定結果は干渉計を利用して測定した透過率とほぼ一致し、コヒーレント放射光によるテラヘルツ波電子線分光の有用性を実証した。 得られた知見については、自由電子レーザー国際会議などの国内外の研究会にて発表した。また、コヒーレント放射光開発について既に論文発表を実施し、分光測定についても論文発表を準備中である。
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