獲得免疫系では、高親和性抗体への成熟が重要な役割を果たす。今回、鳥類B細胞株DT40を用いて、成熟型抗体遺伝子が生成される一連の機構を、培養細胞系で実験的に検証した。実験系としては、申請者らが独自に開発したADLibシステムと、特定タンパク質の選択的分解を誘発するオーキシンデグロン系、体細胞突然変異誘発系の3者を組み合わせ、複合的な新規in vitro系を構築した。 実施期間において、内在性XRCC3を遺伝子ターゲティングにより欠失したDT40株に、オーキシンデグロン・タグを連結したXRCC3、およびイネのオーキシンデグロン結合因子OsTIR1を発現するベクターを導入し、安定形質転換体を複数取得した。形質転換体におけるXRCC3の発現とオーキシン添加時の分解を確認したのち、抗体遺伝子突然変異頻度を指標にタグ付きXRCC3の機能の有無を調べ、最もXRCC3の発現が顕著で、かつオーキシンデグロンの効果が明瞭な株を選別した。上記の株をオーキシン存在下で一ヶ月培養を行い、ゲノムDNAからPCRにより抗体可変領域部位を増幅し、そのDNA配列を解析し、可変領域に導入される変異部位のマップを行った。確立したXRCC3オーキシンデグロン株について、TSA処理を実施し、野生型同様の遺伝子変換が生じることを確認した。TSA処理で抗体遺伝子が多様化した細胞集団を用い、ウサギIgGおよびアポフェリチンに対するモノクローナル抗体をADLibシステムにより作製した。得られた抗体産生細胞について、オーキシンデグロンを作動させ、親和性向上処理を行った。獲得した抗体について、抗体遺伝子可変領域で点突然変異が誘発されていることを確認した。また、この抗体が抗原(ウサギIgG)に対してオリジナルの抗体よりも親和性が向上していることを、フローサイトメーターおよびELISA法により確認した。
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