研究課題
葉緑体とミトコンドリアでmRNAの特定のシチジン(C)がウリジン(U)に変換される「RNA編集」は植物の生育に必須な現象である。しかしRNA編集酵素の実体は未だ不明である。本研究ではモデル植物として優れた特性をもつヒメツリガネゴケを用いて、RNA編集反応の有無を簡便に検出する実験系を開発し、RNA編集に関連した未知因子の分離・同定を目指す。本年度に得られた成果は次の通りである。(1)ヒメツリガネゴケの葉緑体ではリボソームタンパク遺伝子(rps14)が転写された後でmRNAのACGコドンがC-U RNA編集によりAUGコドンに変換される。このRNA編集の生物的意義を検証するため、rps14遺伝子のACGコドンをATGに置換した改変rps14遺伝子をもつ葉緑体形質転換株を作製した。(2)ミトコンドリアで作用するRNA編集因子の候補遺伝子について、逆遺伝学手法を用いて候補遺伝子が実際にRNA編集に関与するかを解析した。その結果、ペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質をコードする2種の核遺伝子(PpPPR78とPpPPR79)がミトコンドリアの3カ所のRNA編集部位に作用することを明らかにした。(3)PPRタンパク質PpPPR43はミトコンドリアcox1遺伝子の第3イントロンのスプライシングに作用する因子であることを明らかにした。(4)PPRタンパク質と標的RNA配列の結合に関する分子認識メカニズムを明らかにした。(5)小葉類イヌカタヒバのゲノムに800種以上のPPRタンパク質がコードされていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りにRNA編集部位を変異させた葉緑体形質転換株を作製することができた。この株を用いることにより本研究課題をさらに進展させることが可能となった。ミトコンドリアのRNA編集に関与する新しいタンパク質因子を同定したことは大きな成果である。また本研究の副産物として、RNA編集だけでなくRNAスプライシングに作用する新規のPPRタンパク質を明らかにした点も評価する。
(1)葉緑体形質転換レポーター株に突然変異をEMSで誘発して多数のRNA編集欠損変異体を分離する。(2)突然変異部位を次世代型シーケンサーを用いて迅速に特定する。突然変異の原因遺伝子の中にはRNA編集酵素本体だけでなく、RNA編集に関わる配列認識因子など様々な因子が含まれていることが予想される。(3)取得した候補原因遺伝子の野生型cDNAを単離しこれを突然変異株に導入し強制発現させ、葉緑体におけるRNA編集反応が回復するかどうかを確認する。(4)前年度に同定したミトコンドリアのRNA編集因子については、単独でRNA編集部位を認識するのか、あるいは別の因子と協調して認識するのかを検討する。
多数のコケ変異株の培養と変異株の解析のための反応キット・酵素類、生化学用試薬、培養用プラスチック類、次世代シーケンス用試薬薬が必要となるので研究経費の大部分は消耗品代に充てる。多数のコケ変異株のスクリーニングと継代培養のための研究補助員人件費、成果発表のための国内旅費と英語論文の校閲および論文掲載料のための経費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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