研究課題
アリや蟻客が発する音を収録して行動を解析するため平成23年度に開発した携帯型高性能録画録音装置を用いて、様々なアリ類の巣内音を収録、分析した。まず、フタフシアリ類はほとんどの種が腰柄にあるやすり状器官を用いて発音していることを確認した。特に、高度な分業社会をつくっているハキリアリAtta columbicaでは、巣の状況に応じて異なる周波数の音が発せられており、コミュニケーション手段として音が用いらていることを見出した。細かな波形分析の結果、ハキリアリは単なる警報などとして音を使っているだけでなく、言語にも似た鳴き交わしを行っている可能性すらあることが明らかとなった。「言語類似音」は少なくとも社会性昆虫では世界で初めての報告であり、恐らく昆虫全体でも極めて珍しい現象と考えられる。蟻客としては、アリから給餌・防衛を含む高度な庇護を受けるシジミチョウ類を主な材料とし、日本産5種(クロシジミ、キマダラルリツバメ、ムモンアカシジミ、ゴマシジミ、オオゴマシジミ)はその全てが発音することを確認した。さらに、アリの巣中でアリ幼虫を捕食し、給餌を受けない種であるゴマシジミ・オオゴマシジミは常に発音するのに対し、アリの巣中でアリ成虫から給餌を受けるクロシジミ幼虫は、アリ成虫から分離して30分程度の時間が経過すると発音頻度が増すこと、多くの場合、アリ成虫を容器に戻すと3分以内に給餌が行われることを見出した。これらのことは、アリの給餌シグナルとして音響が用いられていることを示唆している。更に細かい給餌行動をハイスピードカメラで解析したところ、給餌を受けるクロシジミ幼虫はアリの大顎を下から1秒間に30回程度の速さで連続的に頭部によって刺激しており、振動刺激が給餌の直接的なシグナルになっている可能性も高いと考えられる。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
PloS One
巻: 7 (10) ページ: 1-14
10.1371/journal.pone.0046840