これまで、水生植物の低酸素環境への適応機構に関する研究では、地上部における給気様式と給気能力の関係や給気様式のメカニズムについての研究が中心で、給気能力と生育地の低酸素環境との間に相関があることが指摘されていた。しかし、給気能力が異なる種が低酸素環境において同所的に分布する場合も多く、給気能力だけでは低酸素環境への適応は十分に説明できなかった。本研究では給気能力が異なるヨシ(換気型)とマコモ(拡散型)イネ(拡散型)を用いて、地下部組織内の酸素濃度や地下部の呼吸速度を、酸素の給気能力の異なる水生植物で比較し、水生植物の低酸素環境への適応機構を理解することを目的とした。ヨシ(換気型)とマコモ(拡散型)では、乾燥重量あたりの根の呼吸速度(酸素消費速度)が異なり、拡散型マコモの方が高い値を示した。しかし、拡散型マコモでは根の量が少なく、根あたりの酸素消費速度は換気型ヨシよりも低いことを明らかにした。根への酸素供給能力が低い拡散型のマコモでは、根の呼吸速度を抑えることにより根の酸素濃度の低下を防いでいると考えられる。この成果を論文と学会において発表した。本年度は、換気型のヨシでも、根圏の酸素濃度が低下したときには、根の酸素消費速度を大幅に低下させていることを明らかにした。給気能力の高い換気型の水生植物においても、地下部の呼吸による酸素消費に応じて、地下部組織内の酸素濃度は大きく変化することが示唆された。また本研究の基礎となる呼吸速度の温度依存性についても検討した。
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