研究課題/領域番号 |
23657017
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
|
研究分担者 |
谷 幸則 静岡県立大学, 環境科学研究所, 准教授 (10285190)
内藤 博敬 静岡県立大学, 環境科学研究所, 助教 (30254262)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 微生物ループ / 地球温暖化 / ピコ植物プランクトン / 鞭毛虫 / 佐鳴湖 |
研究概要 |
本研究では、毎年ピコ植物プランクトンの大増殖が起こる静岡県・佐鳴湖において、ピコ植物プランクトンと鞭毛虫の微生物ループについて物質循環および個体群生態学のアプローチによる解明を行う。この結果から、ピコ植物プランクトンと原生生物の鞭毛虫との微生物ループを活性汚泥に応用した、大気中の二酸化炭素を低減させるシステムを構築するための基礎研究を行う。佐鳴湖でピコ植物プランクトンの大増殖が起こる夏季に調査を行い、ピコ植物プランクトンと原生生物の現存量と組成を季節的に調べた。調査は、月に一回の頻度で行い、6月17日と7月30日には鞭毛虫によるピコ植物プランクトンの摂食速度測定も行った。佐鳴湖の月一回の調査については、ピコ植物プランクトンを含む光合成色素分析は終了している。また、湖水サンプルに窒素(硝酸態、アンモニア態もしくは尿素)を添加すると、8時間の培養でピコ植物プランクトンの光合成色素(ゼアキサンチン)の上昇が見られた。6月から8月にかけては、佐鳴湖のピコ植物プランクトンの細胞密度は1ml当り百万細胞を越え、摂食者と思われる鞭毛虫の細胞密度は1ml当り一万細胞を越えた。これらの細胞密度は、通常の湖沼での夏季のそれぞれの微生物の密度の10倍程度高い。しかし、これら両者の季節動態に、明確な変動パターンは見いだせていない。鞭毛虫によるピコ植物プランクトンの摂食速度は、希釈法で測定したが、残念ながら希釈率と増殖速度との間に統計学的に有意な関係が見いだせなかった。次年度は、蛍光疑似餌法も併用するが、この方法には単離されたピコ植物プランクトン株が必要である。今年度は、このためのピコ植物プランクトン株の単離を行ったが、まだ単離株が得られていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ピコ植物プランクトン現存量の季節動態把握については、ほぼ月一回のサンプルを得ることができたが、気象条件悪化により、状態の良いサンプルを得ることができなかった。平成23年度は、7月から9月にかけて、静岡県に大雨が降る頻度が高かったのと、複数回の台風の来襲があった。佐鳴湖は、元々湖沼規模が小さく、降雨で河川が増水すると、増水した河川水が本湖の湖水交換を高めるために、通常は降雨後一週間ほど湖水が濁水化し、ピコ植物プランクトンは本湖の系外に排出され、ピコ植物プランクトンの増殖も見られない。平成23年度は、先述の通り、大雨の頻度が高かっただけでなく、台風来襲もあったため、佐鳴湖の湖水交換がたびたび起こり、その度に湖沼観測とサンプル採集の機会を奪われた。これと同じ理由から、希釈法によるピコ植物プランクトンに対する鞭毛虫の摂食速度測定も行う機会が限られていた。希釈法では、希釈率と増殖速度との間に統計学的に有意な関係が見られなかったが、通常、希釈法でこのような結果が出る場合は、捕食者と被食者との間に強い食うー食われる関係が成立していないときである。平成23年度の場合、大雨等により度々ピコ植物プランクトンと鞭毛虫の食物連鎖が機能しなくなったために、希釈法で良い結果が得られなかったと考えられる。ピコ植物プランクトンの単離株については、優占ピコ植物プランクトンのシネココッカスの増殖培地を用いて培養しても、緑藻のセネデスムスが優占的に増殖してしまった。そこで、他の種類の培地を用いたり、培養温度や光条件も変えているが、セネデスムスの増殖が抑えられていない。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、佐鳴湖のピコ植物プランクトン現存量の季節動態把握が、まず第一優先で重要である。このためには、より頻度高くサンプル収集する体制が必要であり、気象条件によらず、サンプルを確保できる機動力が求められる。しかし、佐鳴湖から遠隔地にいる京都大グループがサンプル採取頻度を高めるのは現実的ではない。そこで、本湖から比較的近くに居る静岡県大グループと、このグループに協力的なボランティアにより、佐鳴湖の水サンプル採取頻度を高める。このボランティアは、ほぼ毎日佐鳴湖を訪問して簡単な水質調査等を行っている団体であり、我々の研究にも理解を示している。希釈法によるピコ植物プランクトンに対する鞭毛虫の摂食速度測定は、京都大グループの佐鳴湖出張のみでは測定回数が限られている。そこで、静岡県大グループにも本法を技術伝達し、静岡県大グループも本法による摂食速度測定が可能とする。このことにより、摂食速度測定頻度を高め、捕食者と被食者との間に強い食うー食われる関係が成立しているタイミングを逃さない工夫とする。さらに、希釈法に加え、蛍光疑似餌法によっても、ピコ植物プランクトンに対する鞭毛虫の摂食速度測定を行う。この方法は、希釈法よりも成功する確率が高い。蛍光疑似餌法では、単離ピコ植物プランクトン株が必要である。このためには、湖水だけでなく、底泥からもシネココッカスの単離を行う。さらに、過去に佐鳴湖のシネココッカスを単離した経験を持つ研究者に問い合わせ、株の存否や単離のノウハウを教示願う。また、シアノバクテリアの単離を専門とする研究者の指導もお願いする。以上により、佐鳴湖のシネココッカス単離株を取得し、蛍光疑似餌法を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品としては、佐鳴湖のピコ植物プランクトンと鞭毛虫の細胞数計数に必要なフィルター類と蛍光色素、およびこれら微生物の種・属同定のための遺伝子解析用試薬類および器具類、ピコ植物プランクトンを含む植物プランクトンの光合成色素測定用試薬類および器具類、ピコ植物プランクトン単離に用いる培地試薬類と培養器具類、佐鳴湖現場調査に必要な調査器具類、希釈法および蛍光疑似餌法で用いる現場培養器具類一式である。これらの利用は、本年5月から2013年1月ごろまでを考えている。旅費は、佐鳴湖出張のための調査旅費(6月から9月)、静岡県大グループが京都大学生態学研究センターに出張するための旅費(5月から6月)である。学会発表や論文執筆の打ち合わせ(2013年1月から2月)のための出張も行う。佐鳴湖のサンプルを京都大学生態学研究センターに送る(随時)ための宅急便料金、論文執筆する際の英文校閲料(随時)、実験・現場調査補助のための謝金(本年5月から2013年1月ごろまで)も合わせて必要である。
|