研究課題/領域番号 |
23657019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥田 昇 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30380281)
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研究分担者 |
近藤 倫生 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (30388160)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生態学の代謝理論 / 生態化学量論 / メソコスム / 食物網理論 |
研究概要 |
本研究は、全ての生物に共通する生化学反応である「代謝(メタボリズム)」の速度が体サイズのべき乗に比例して増加するという「代謝のサイズスケール則」に着目し、この現象を個体より上位の生物学的階層である生態系に適用することによって、「生態系メタボリズム」という生態系機能の新たな概念構築を試みることを目的として実施した。特に、生物群集における捕食・被食を介した個体群増殖の速度論的反応過程を説明するために発展してきた生態化学量論を代謝理論に組み込むことによって、高次階層生物システムとしての生態系メタボリズムの制御メカニズムを理解することを目指す。 高度に環境制御された中規模人工生態系実験装置を用いて湖沼の生態系メタボリズムを制御する要因の解析を行ったところ、代謝のサイズスケール則の予測(小さな生物が優占する生態系ほどバイオマスあたりの生態系代謝速度は高くなる)と合致しない結果が得られた。そして、生態系代謝は最も希少な栄養素によって律速されるという結論に到達した。 地球温暖化問題を契機として、野外生態系のガス収支を推定する研究が精力的に進められている。これらの研究は、個体代謝の予測値を積分的に生態系レベルに積み上げるアプローチを常套手段とする。しかし、本研究は、代謝基質となる栄養素を転送する生物間相互作用の速度がシステム全体の代謝速度に影響し、生態系にとって利用可能な栄養元素比が根本的な律速因子となりうることを強く示唆した。生態系代謝を理解する上で、個体の代謝理論と生態化学量論を統合した新しいモデルの必要性が改めて浮き彫りとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、生態系の代謝速度を実測することにより、世界に先駆けて生態系代謝の律速要因を実験的に検証することに成功した。これは野外で実現される生態系レベルの代謝を理解する上で画期的な成果と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、個体の代謝理論と生態化学量論を統合した新しい代謝理論を構築し、さまざまな生態系に適用可能な汎用性の高いモデルの作成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、一部解析の完了していない実験データの整理を進めるとともに、生態系の代謝理論の統合化を目指す。生態系代謝に及ぼす群集の体サイズ分布と栄養元素比の効果の相対的重要性を評価するために、個体代謝のサイズスケール則、捕食・被食相互作用、捕食者・被食者体サイズ比、栄養転送効率、栄養元素比を明示的に組み込んだ食物モデルを作成することを計画する。
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