研究課題/領域番号 |
23657020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水野 一晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10293929)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 環境変動 / 植生遷移 / 地球温暖化 / 獣害 / 高山植物 |
研究概要 |
南アルプスの聖平から茶臼岳にかけて、2011年7月に「お花畑」の植生分布を調査した。7つのプロットにおいて植生調査を行った。近年、シカによる食害の影響が大きく、高山植物を守るために各地の「お花畑」に柵が設置されている。柵内は、ミヤマカラマツ、イブキトラノオ、ミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、ハクサンフウロ、イワオトギリ、ニッコウキスゲ、タカネスイバ、エゾシオガマなど、本来、この地域に生育する高山植物が優占するが、柵外はシカの食害の影響で、シカが食べないバイケイソウが繁茂していて、他の植物はあまり生育していなかった。1981-82年に「お花畑」の植生について調査した結果と現在の柵内は類似しているが、柵外はまったく変化していた。聖平の「お花畑」に特徴的であったニッコウキスゲは現在ほとんど見られず、わずかに残っている個体にはネットがかぶせられて保護されている。 比較研究のために、ケニア山でも調査を行った。ケニア山のティンダル氷河の斜面下方では、近年の氷河の後退にともなって先駆的植物の分布上限が前進していたが、氷河の後退速度が1958-1996年の約3m/年に比べ、1997-2011年は7-15m/年と早くなり、それにともなって先駆的植物の前進速度も速くなった。氷河斜面下にはそれまで見られなかったHelichrysum citrispinumが2009年にはあらたに32個体確認され、その多くが開花していたが、気温データの解析より、その分布拡大や開花には、2009年3-9月の月平均気温が平年よりも1℃以上高かったことが影響していると推定された。また、2011年には、通常12-2月に開花するジャイアント・セネシオのSenecio keniodendronが8月に多数開花していたが、これには2011年に乾季の6-8月に降水量が多かったことが影響していたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南アルプスの「お花畑」の植生を1981-82年の調査結果と比較して、高山の環境-植生動態を明らかにする本研究は、2011年度には聖平およびその周辺において7つのプロットを設けて植生調査を行い、約30年間の変化を分析できた。その植生変化の大きな要因はシカによる食害であるが、近年の温暖化も植生変化には影響していると考えられる。その温暖化の影響を考えるため、比較調査として1992年より植生と環境の調査を行っているケニア山でも2011年に現地調査を実施し、温暖化が植生に与える影響を解析した。このように調査はおおむね順調に進んでおり、さらにデータを積み重ねれば、南アルプスの約30年間の植生変化やその原因を明らかにすることができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
南アルプスで1981-82年に植生調査を行った全47カ所の「お花畑」において、2011年度と同様に、今後少しでも多くの場所で調査を行い、約30年間の植生動態を明らかにする。また、シカの食害以外の要因、たとえば温暖化の影響がどの程度植生変化に及んでいるかを明らかにするために、柵で囲んで保護されている場所や、シカが訪れないようなより高標高の「お花畑」において植生を調査し、また近年の気候変化のデータと対照させて解析を進める。 また、1992年より継続調査を行っているケニア山の植生変化や気候変化のデータを積み重ね、それらを南アルプスのデータと比較して、グローバルスケールから近年の気候変化と植生変化の関係をより明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
7月下旬に大学院生4-5名と南アルプスに約1週間調査に入る旅費等の経費として約40万円を使用する。日常的な研究の補助としての人件費として約30万円を使用する。
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